第14話 新たなる美闘士

 戦いが終わって表彰式が始まる。空良は校長先生に呼ばれて前に出た。

 みんなの集まるグラウンド。辺りには生徒達もいれば一般の方々もいる。空良はみんなの注目を浴びて緊張してしまう。

 ここまで来て失敗はできない。上手く戦い抜いてきたのだ最後まで努めたい。

 頑張って右手と右足が同時に出ないように歩いて背筋を伸ばしてしっかりと立った。


「おめでとう一条空良さん。あなたが今年の我が校の代表選手です」

「ありがとうございます」


 空良は壇上で校長先生に祝福される。校長先生と親しく話した事はなかったが、優しく声を掛けてもらった。


「皆さん、我が校の新しい選手に惜しみない拍手を!」


 パチパチと上がる拍手。みんなに認められて空良は照れてしまう。でも、羽目を外さないように頑張って真面目な顔をした。

 その顔はどのように映ったのか、校長先生は息を吐いてから話を続けた。


「代表となった一条さんには我が校に伝わる伝説のヴィーナスクロスを着て本戦に進んでもらいます」


 空良の心はドキドキとして気分が高まってきた。ヴィーナスクロス、それは女神から贈られた神秘の鎧だ。大会に臨む者としてそれぐらいの事は知っている。

 去年は見る事が出来なかった。怪我をして試合が終わった後にすぐ保健室から病院に送られたから。今年ついに目にする。

 校庭の一角の地面が割れ、祭壇が浮上してくる。そこの箱に祀られているのがヴィーナスクロスだ。校長先生が説明してくれる。


「ヴィーナスクロスは普段は眠っていますが、持ち主が選ばれた時、その者の心を写し取って姿を変えると言われています。一条さん、受け取りなさい」

「はい」


 空良は緊張を抑え込んで逸る足も抑え込んで祭壇に向かう。何とかつまづいたり転んだりせずに辿り着く事ができた。

 ここで怪我をしたら目も当てられない。去年の失敗はもう克服するのだ。決意を胸に前を見る。

 そして、そこに祀られているヴィーナスクロスの前に立った。

 女神から贈られたと伝えられている神秘の鎧。それは最初混じりけの無い無色だった。

 だが、空良が認められた瞬間、光輝いて大空を思わせるような水色の羽根のように軽そうなビキニアーマーへと変化を遂げた。

 空良には実感が出来た。それが自分の物であると。


「これがあたしの心」


 神秘の鎧は自然と空良の体に装着される。新たな美闘士として認められた証だ。

 そして、水色の衣を纏った空良は歓声に沸く会場へと手を振るのだった。




 長かった選抜試験が終わって、始まるのはいつも通りの日常だ。

 午後の授業が始まる前の休み時間、空良は教室でクラスメイト達に囲まれていた。

 みんなクラスから出た優勝者を見たいとワクワクと煌めいていた。


「一条さん、ちょっと戦いのポーズを決めて見せてよ」

「うん! やあ!」

「いい感じいい感じ。もっと顔を引き締めてみせてよ」

「うん、こうかな。キリッ」

「何か違うなあ。一条さんにはのんびりした顔の方が似合うかな。リラックスして」

「うん、へにゃにゃー」

「わあ、一条さーーん!」


 学校の代表の座を射止めて見せた空良にクラスのみんなが注目していた。今の空良はみんなに求められるままにサービスしている。

 神聖な鎧をこんなところで披露してみせて、先生に見つかったら怒られそうだが、幸いにも休み時間の今は教室には生徒達しかいなかった。

 みんなに囲まれている空良を乃々と寧々は離れた席から見守っていた。乃々は寂し気に息を吐く。


「ソラヨシがこんなに人気者になるなんてねえ。出会った頃は思わなかったよ。何だか遠くなった気分」

「乃々は最初から空良に期待してたんじゃないの? クラスで一番懐いてたじゃない」

「期待はしてたんだけどね。期待以上になっちゃった感じ」


 応援していた空良が優勝して乃々は喜ぶどころか落胆している様子まで受ける。そんな姉妹の感情は長く一緒に暮らしていても寧々には完全には分からない。


「このまま本戦まで優勝したらどうなるんだろ。誰にも渡したくないな……」

「気が早い。空良は頑張ったんだからこれからも応援しましょう」


 そう空良は頑張った。それだけは褒められる確かな事だった。

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