第13話 決着の時

 空中戦は空良の得意分野だ。ここで決着を付けると挑みにかかる。

 剣のスキルで風を発生させて、その風に乗って剣を振るう。だが、空にありながら落ち着いてガードに回るまどかの剣は崩せない。


「もう一度!」


 旋回して再び攻撃を繰り出すが、何度やっても結果は同じだった。まどかの剣は的確に空良の攻撃を弾いてしまう。

 やはり戦闘の経験が相手の方があるということだろうか。まどかは去年本戦にも出場している実力者だ。

 地形の不利を感じさせない落ち着いた佇まい。不利になったのは急いで勝負を付けようとした空良の方だった。


「無駄にスキルだけ使わされた……!?」


 結果を悔やんでも遅い。まどかは空中では防御に徹して攻撃を仕掛けては来なかった。使わされたのは空良の力だけだった。

 相手の得意分野では挑まない。これも戦法なのだろう。


「飛ばされたのには驚きましたが、勝負を急ぎましたね」


 着地するのは舞っていた空良よりもまどかの方が早かった。

 空良が地上に来る時にはもう攻撃の構えに入っていた。


「唯一点を貫く神速の煌めき!」


 すぐ傍から放たれる必殺の一撃。威力はもう分かっている。

 これは絶対に避けなければならない。避けなければここまで頑張ってきた何もかもが終わってしまう。

 みんなに応援された思いも空良自身の気持ちも何もかも吹き飛ばされてしまう。

 空良は必死になって剣をクロスさせて相手の攻撃を受けとめる。まどかの必殺の一撃。それは今回は空良を上には逃がすまいとやや下に抑えつけるように振るわれていた。

 見切った空良はその力を背後の頭上にずらして自身を地面に滑り込ませた。

 凄まじい威力だったが空良の両腕は耐えられた。必殺の一撃を逸らされてまどかは体勢を崩しかけるが、隙を見せてくれるほど甘くはない。

 すぐに踏ん張って振り返り、次の一撃を振り降ろしてきた。

 もう空良に考える余裕はない。勘だけが頼りだ。すぐに振り降ろされてくる剣を夢中で跳び起きざまに受け止める。


「八頭連斬!」


 相手は畳みかけてくる。体勢が万全で無い状態でこの連撃は止めきれない。空良は避けきれない物はジャンプして跳び越えようとする。だが、甘かった。


「そこ!」


 まどかの剣が体に届き、空良は受けたダメージに顔を顰めながら地面を転がった。

 肌に感じる痛み。空良はすぐに自分の状況を確かめた。ダメージは受けたが、かすり傷だ。まだ動ける。自分の両腕は剣を握れる。

 動きを止めた空良に向かってまどかは連続した突きを放ってくる。空良はすぐに後方に跳んで距離を取って避けた。

 考える余裕もなく全力で。だが、この間合いはまずいと気づく。

 まどかは獲物を狙い通りの場所に誘導したと黒い笑みを浮かべた。空良にはもう満足に飛べるような元気が残っていない。

 多くの大蛇の群れを全て風で抑えるほどの力ももう無い。あの大技を放たれたら防ぐ術もなく飲み込まれてしまう。

 そして、まどかは空良の想像通りに剣を縦に構えてそのソードアーツを使おうとする。


「抜剣! 八俣の大蛇!」


 だが、どういうわけかその技は発動しなかった。観察していて気づく。


「はあはあ、休憩をきちんと取っておくべきでしたね……」


 まどかは息を荒げて剣を下ろした。

 疲れているのはお互いさまなのだ。勝負を急いで無理にスキルを使おうとした反動は来る。

 空良はここで決着を付けるべく走る。まどかも剣で迎え打った。


「剣なら勝てると思っているのですか!? このわたしに!」


 確かに素の剣の技量でもまどかの方が高い。一本の剣だけでも空良の二刀流を確実に弾いてしまう。

 だが、他にもう打つ手がない。空良は最後の力を振り絞ってスキルを発動させる。


「風の刃!」

「そのスキルを吸収する!」


 だが、空良のスキルはすぐにまどかの剣に吸収されてしまう。分かっていた事だ。何度やっても結果は同じだ。

 空良が何度風を発生させてもまどかの剣はすぐにそれを消してしまう。

 お互いに同じことを繰り返し、何度も剣を衝突させていく。


「この、いい加減にしつこい……! 諦めたらどうですか!」

「あたしは諦めない! 風よ、あたしの剣に乗ってもっと加速させろ!」

「なに!?」


 空良の風が変わった。まどかがそう感じた瞬間。

 風で速度を増した空良の剣が、まどかの剣を大きく弾き飛ばした。まどかにはその剣を拾いに行く事は出来なかった。

 空良の剣が肩を強打し、その場で膝をついてしまう。審判が試合の終了を告げた。

 会場に沸き起こる歓声。空良は意識の遠くなる思いで聞いていた。


「あたしが勝ったの……?」

「くっ……」


 まどかは拳を握りしめ、剣を拾って去っていく。

 クラスのみんなが駆け寄ってきた。乃々も寧々もクラスのみんなも喜んでくれた。


「やったね、ソラヨシ。本戦に出場だよ」

「やるじゃない、空良。でも、本番はこれからよ」


 乃々と寧々に褒められてクラスメイト達に胴上げされて、空良はやっと自分は勝ったんだと嬉しさがこみ上げてくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る