第12話 イーター
大空高く吹っ飛んだ空良はそこで両手の剣に風を起こして体勢を立て直した。
「なるべく衝撃を受け流すように飛んだのにこの威力。あれを受けるのは危険だね」
地上を見下ろしながら両手の震えを抑え、着地する。まどかは空良が戻ってくるのを待っていた。
「あれを防ぎきるとはさすがは空良さんですね。この試合が来るのを待っていたかいがありました」
「防ぎきれたのかな。かなり吹っ飛ばされたけど」
「では、そろそろ本気で潰すとしましょうか。抜剣! 八俣の大蛇!」
会場の空気が変わった。これから来る脅威を肌で感じ取ったかのように。空良も感じた。まるで暴風に立ち向かう旅人のように。でも、吹き飛ばされずに堪える。これからの戦いに挑むために。
まどかの縦に構える剣が肥大化して大きくなっていく。それはまるで周囲の元素を食らい成長していく化け物のよう。
鉄を増殖させる。それがまどかのソードアーツなのだろうか。
空良には分からない。考える時間も無い。まどかはその巨大になった剣を今までの普通の剣とまるで変わらない質量であるかのように軽々と空良に向けた。
「喰らいなさい。イーター!」
剣から八匹の大蛇が放たれた。そう錯覚させる複数に別れて迫りくる剣先の伸び。空良は防ごうとして諦めた。
鉄の大蛇は数匹が回りこんであらゆる方向から迫ってくる。こんな物はとうてい防ぎきれるものではない。
檻に閉じ込めた獲物を狙うかのように集中する包囲網。空良の逃げる方向は上にしか無かった。
「風よ! 飛べ!」
風を纏って空を飛ぶ。大蛇が追いかけてくる。空良は剣で迎え撃とうとするが鉄の牙に弾かれるように跳ね返された。
「剣が効かない!」
あの鉄はかなりの強度を持っている。空良は避ける事を余儀なくされる。ならばと機動性を抑えて攻撃に風を回す。
「風の刃!」
だが、空良の放った風は大蛇の開いた口に飲み込まれた。
「風を食べた!」
あの剣は空良の放ったスキルを飲み込むのだ。それで最初に放ったスキルもかき消されたのだ。
そうと気づいても空良には打つ手がない。ただ大蛇に翻弄されるままに避け続けるしかないのだった。
その哀れな小虫の動きをまどかは地上から涼し気に見上げていた。八頭の大蛇に囲まれて空良にはもう逃げ回ることしか出来ない。
あの鉄の大蛇はまどかの剣だ。いわば今の空良はまどかの手の平の上でもがくムシケラも同然だった。
「フフ、あなたを握りつぶすのももう時間の問題ですね」
この時を待っていた。去年怪我を負っていたあの子を全力の状態で叩き潰す時を。
空良が強いのは分かっていた。だからこそ全力で潰して自分の強さを証明し、後腐れなく本戦に挑みたい。
去年は味わえなかった満足感にまどかは笑う。だが、その時がなかなか訪れない。まどかはふと違和感を覚えた。
「剣の動きが鈍くなっている。なぜ?」
手元で剣を動かしても先の大蛇が満足の行く動きをしない。ぎこちなく、反応も鈍くなっている。
そして、気づく。大蛇の牙を、胴体を、風の渦が取り囲んで動きを封じようとしている事に。
「風に抑え込まれる!? そんな芸当が!?」
飲み込もうとしても風に抑えられた口は開かない。スキルが消せない。
「この!」
それでもまどかの実力なら風を振り払えるが、一瞬でとはいかない。その隙を見逃すほど空良は甘くはない。
八俣の大蛇の包囲網を抜けて空良が地に降り立った。まるでチャンスを掴んだような強気な眼差しをして。
「まどか会長にしては大振りな技だったね」
「何を勝ち誇った顔をしているのですか、あなたは!」
「ここで勝ちに行く!」
まどかはすぐに剣を元の大きさへと戻す。空良は突撃する。今のまどかの剣は一本に見えても八頭の大蛇の潜む剣だ。
「八頭連斬!」
怒涛の八回攻撃が空良を襲う。去年の空良はこれを四発までしか受けきれなかった。だが、今年の空良は二本の剣を扱える。
「一、二、八回!」
二刀流こそ空良の本領だ。ただ二本を使えるという以上に動きが鋭い。
だが、全てを打ち返してもまだまどかの不敵な笑みは崩せない。
「!!」
空良は自分の勘が告げるまま背後に二本の剣を回した。迫りくる二発の攻撃を背で防いだ。まどかは今度こそ驚愕の顔を見せた。
「尾の攻撃まで防いだ!?」
「友達が背後からの攻撃に気を付けろって忠告してくれたんだ。風の竜巻!」
敵の見せた隙を空良は逃がさない。二本の剣で竜巻を起こしてまどかとともに大空高く舞い上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます