第11話 決勝戦
乃々に言われて他の人の試合も気になってきたので、空良は今度の休憩時間は自分の復習は止めて観戦しようと思った。
会場の観客席に行くと乃々と寧々に迎えられた。乃々は空良の勝利を自分の事のように喜んでくれた。
「二回戦も快勝だったね。ソラヨシが頑張ってくれてわたしも嬉しいよ」
「快勝……だったのかなあ」
まだ二回しか戦っていないのに温存しようと思っていたソードアーツも二刀流ももう使わされてしまった。
この学校の人達は強い。これ以上の強敵が現れたら空良にはもう打てる技が無いのだが。
「行けるところまで行くしかないか」
そう覚悟を決める。
「会長の試合が始まるわよ。空良はさっきの試合を見ていないんでしょう」
「会長の試合が!?」
寧々の言葉に空良は目を向ける。確かに会場にはまどかが進み出て、アナウンスがその名前を告げていた。戦う相手は三年生のようだ。
少し気になった前の戦いの事を寧々が教えてくれた。
「前の対戦相手は一年生で勝負にならなかったのよね。今度は参考になるような戦いをしてくれるといいけど」
「一年生を一瞬で!?」
空良の一回戦の相手も一年生だったので決して油断できる相手でないのは分かっている。
強者がいると分かっている舞台だ。エントリーしてくる段階で自分の実力に自信を持つ猛者であると予想できる。
それを容易く倒すとはさすがはまどかの実力だ。去年は空良も怒涛の連撃にやられたので覚えている。
「でも、今年のあたしは二刀流が使えるから……」
どこまで通用するか見せてもらおう。勝負は始まって一瞬で終わった。審判がスタートを伝えてまどかが剣を納めた時にはもう相手が倒れていた。
歓声で盛り上がる会場。空良達はポカンとしていた。乃々が訊いてくる。
「今、会長は何をやったの?」
「剣を抜いて斬っただけ」
何と言われてもそれ以上の言葉がないシンプルな試合だった。続けて寧々が驚いて訊いてくる。
「空良にはあれが見えたの!?」
「見えた……けど」
それでもこの距離で客観的に見ての答えだ。初見で相対してあれに反応するのは難しいだろう。やはりまどかは強い。
それに空良にはもっと脅威に思う事があった。
「まどか会長、去年あたしがやられたあれを見せなかった」
これではどれだけ実力が通じるか計れない。これからは試合を見ておいた方がいいか。空良がそう考えた時。
まどかが審判に何かを伝え、審判が周りに向かって呼びかけた。
『では、これより決勝戦を行います。一条空良選手は会場にお越しください!』
「え!? もう決勝なの!?」
いくら何でも早すぎる。今年は8人しかエントリーしていないのだろうか。
驚く空良だったが、乃々と寧々は納得した風だった。
「そりゃあんなの見せられたら出る気も失せるわね。ソラヨシぐらい実力がなくちゃ」
「あんたも無理して出なくていいのよ」
「でも……それでも……」
出ると決めてきたのだ。体勢も万全に整えてきた。だから、空良にはもう退く道なんて無かった。己をぶれさせないように意思を伝える。
「あたしは行くよ」
「それでこそソラヨシ!」
「無理しない程度に頑張りなさい」
「応援してる!」
「頑張って!」
「会長に勝てるのはソラヨシだけだ!」
「ありがとう」
いつの間にか集まってきたクラスメイト達も応援してくれる。勇気を持って空良は会長の待つ決勝の舞台へと向かった。
この人と戦うのは去年の大会以来、一年ぶりだ。試合の始まる前のわずかな時間、緊張の舞台で空良はまどかと相対して話しかけた。
軽い世間話で少しでも自分の調子を取り戻そうと。
「さっき審判の人と何か話していましたよね。何を話していたんですか?」
「休憩はいらないと申し上げたんですよ。少しでも早くあなたと戦いたかったですからね」
何ということだろうか。まどかは二連戦で空良と戦うというのだ。一瞬の決着とはいえ、それでも全く消耗していないわけではないだろうに。
まどかはさらに言葉を続けた。
「去年のあなたは万全の状態ではありませんでしたからね。少しでも早く全力のあなたと戦いたい。そう再戦を願っていたのはあなただけではないのですよ」
涼し気に微笑む。まだ始まってもいないのに呑まれそうな空気に空良は耐える。
審判が開始を告げる。まどかはゆっくりと剣を引き抜いた。それはさっき見た神速の剣技からは遅すぎるほどに。
緊張の面持ちで見守る空良にまどかは落胆した様子で呟いた。
「かかって来ないんですね。これほどゆっくりと動いてあげたのに」
「まどかーーー!」
もう決勝戦だ。出し惜しみする必要なんて何も無い。空良は二本の剣で斬り掛かる。
「ははっ!」
それをまどかはただ一本の剣だけで容易く返して見せた。
「どうですか? まだ準備運動を続けますか?」
見せられる余裕。
まだだ。まだ空良にはソードアーツがある。
「もう準備は済ませてきた。風の刃!」
空良は風を纏って跳び、風の刃で斬りつける。その風をまどかはただ剣を一振りするだけで掻き消した。
「え!?」
風が消えるなんて空良にとっては初めての体験だ。何故消えるのか全く分からない。ただ出来るのは続く凶刃を全力で回避するだけだ。二本の剣で刀身を受け流し、風を起こして出来るだけ離れる。
空良は地面を転がって何とか起き上がる。
「風は起こせる、剣は二本使える、まだ戦える!」
「さすがは空良さん、今のあなたならこれも止められそうですね」
まどかが構える。それはさっきの試合で見た構えだ。
「唯一点を貫く神速の煌めき!」
やはり相対して受けるのはただ見ているだけとは全然違う。
だが、知っているから防御できた。知らなければやられていた。一瞬の接近とともに突きだされる刃を空良は何とか二本の剣をクロスさせて防御した。
だが、威力を殺しきれない。空良の二本の剣が悲鳴を上げている。まるで今にも猛獣に食い破られようとしているかのように。
「この技は防ぎきれない!」
空良は受けるのを諦めた。空良は吹き飛んだ。
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