第10話 空良の習った剣

 空良がこの大会に興味を持ったのはまだ幼い子供の頃だった。家族と一緒にテレビで見て自分もやりたいと思った。

 その思いがよほど顔に出ていたのだろう。空良を見てママが言った。


「空良もこの大会に出たい?」

「うん!」

「じゃあ、練習しないとね」


 空良が喜んで答えると、テレビが終わった後にママと一緒に庭に出て練習する事になった。

 パパは心配そうにこう言ったけど、


「ママ、あんまり空良を痛めつけないでくれよ」

「分かってるって、わたし達の子供なんだから無理はしないわ」


 ママは気楽に答えていた。その言葉の意味を空良はすぐに理解する事になった。

 練習用の剣を握ったママの気迫が変わった。まるでライオンはウサギを狩る時も全力だというように。


「行くわよ、空良! わたしに勝ってみせなさい!」

「うん! うひゃああ! あああ!」


 空良はボコボコにやられた。それでも手加減はしていたのだろう、パパは止めはしなかった。何回かやられた後で空良はついに泣き言を上げた。


「ちょっと待ってよ、ママ!」

「どうしたの、空良。もう降参する? あなたの覚悟はその程度だったのかしら」

「そうじゃなくて!」


 空良はママが両手に持つ二本の練習用の剣を指さして言った。


「ママだけ剣を二本も使うなんてずるいよ!」


 空良は一本だけしか持っていない。それが不公平だと言うのだが、パパは苦笑して言った。


「空良に二刀流は無理だよ。大人でも難しいんだ。まずは一本から慣れた方が良い」

「いや! あたしも二刀流やる!」


 空良はむきになって首を横に振ると、物置に行って自分も二本目の練習用の剣を持ってきた。

 両手に一本づつ剣を持つのは幼い空良には難しかったが、不格好でも構える。ママは笑ってそんな娘を見守った。


「あらあら、ママの真似をしようっていうの? 分かったわ。なら、空良にはこのママの剣技をたっぷりと教え込んであげる」


 練習は厳しかったが、おかげで学べる事は多かった。そして、空良は強くなれた。




 観客が悲鳴を上げた会場に静けさが戻ってきた。空良は二本の抜いた剣で狂の放った二本の短剣を両方とも受け止めていた。

 勝利を確信していた狂の瞳が驚きに見開かれる。


「アタシの剣を止めただと? 先輩も二本の剣を使えるってわけかい」

「これを抜いたからにはあたしはもう負けないよ。ママに習った剣だから!」

「しゃらくせえ!」


 鎖が振られて飛ばされてくる剣を空良は弾き返す。そのまま突っ込んだ時には剣はもう狂の手に戻っていてお互いの二本の剣同士がぶつかった。

 火花を散らしながら空良は訊ねる。


「狂さんはいつから剣をやってるの?」

「この学校に入ってからさ。去年見てこの大会に出ようと思ってね」

「なら、剣でも先輩のあたしが負けるわけにはいかないね」

「うるせえ! 喧嘩屋を舐めるな!」


 狂が横向きに振ってくる剣を空良は身をかがめて避ける。同じ二刀流使い同士だからこそ分かる。相手の剣がまだまだ洗練されていない事が。


「あたしはもっと強い人を知っている!」


 こんな剣技などママの足元にも及ばない。だからこそ空良は負けるわけにはいかない。剣を突いて狂の剣の片方を弾き飛ばす。


「くっ、ソードアーツブラックタイフーン!」


 相手もすぐには攻めさせてくれない。

 狂の振り回す鎖が刃物を持つ黒い竜巻となる。だが、甘い。風使いこそ空良の本領だ。


「ソードアーツ風の竜巻!」


 空良は二本の剣に風を起こし、狂とは反対の回転をかけて突っ込んだ。風の中で流れに乗り、空良は正確に相手の動きを見切る。


「そこだ!」


 黒い風の中、回って来た鎖に自分の剣を叩きつけ、地面に落とす。黒い風が止んだ。後には呆気に取られる狂の姿。空良は風をまとって突っ込んだ。

 相手が鎖を引っ張るが次の行動はもうさせない。

 剣を一閃し、勝負は決まった。


『勝者! 一条空良選手!』

「ふう、勝てた」


 まずまずの結果に満足し、空良はその場を後にするのだった。

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