第9話 二回戦
乃々が会場の自分の席に戻ってくると、隣の席では寧々が怒った顔をして待っていた。
「乃々、どこ行ってたの。空良の試合が始まるわよ」
「ごめんごめん、そのソラヨシと話をしててさ」
「邪魔してたんじゃないでしょうね。今のあの子は試合の事で頭がいっぱいいっぱいなんだからあんまりちょっかいかけちゃ駄目よ」
「掛けてないって。ほら、ソラヨシの試合が始まるよ。前を向かなきゃ、寧々ねえ」
「うん……」
そうして、二人。会場に目を向けるのだった。
空良が急いで走って到着すると二回戦の相手はもう待っていた。二年生の砕場狂。刃物のような鋭い戦意を見せる彼女が対戦相手だ。
「また会ったな。この試験の先輩と戦えるとは嬉しいよ」
「あなたは更衣室で会った。これからよろしく」
「余裕を見せてくれるじゃないか。さすがはこれが二年目の先輩。ここで倒して弾みにさせてもらう」
「そうはさせないよ」
明確に放たれてくる敵意に空良の肌はピリピリとする。それも当然か。相手も勝つためにここに来ているのだから遊びにきているわけではないのだ。
空良は戦闘に身構える。相手は機嫌が良さそうに微笑んだ。
「さすがはこれが二年目の先輩。そこらのザコとは違う気風のある構えをする」
「あたしも去年の失敗でいろいろ学んできたからね」
「なら、始めようじゃないか。この一瞬で終わるバトルをな!」
審判がスタートの合図をするとともに狂は二本の剣を抜いた。空良のような真っすぐな長剣ではない、黒く塗られた不気味に曲がった短刀だ。
相手が短刀とはいえ二本の剣を抜いた事に空良は少なからず驚いた。
「あなたも両手で剣を使うの!?」
「さあ、どうかな!」
空良は自分も二本の剣を抜くか迷ったが、その隙に相手は剣を二本とも投げつけてきた。
「え!? くっ!」
まさかいきなり剣を二本とも投げてくるとは思わない。それでも空良は反応する。
とっさの判断でかわすが、頬にかすって傷を受けてしまった。
「ここまで怪我をせずに来たのに!」
空良にとって今年は怪我をせずに大会に臨む事が目標だった。それがここで崩れて衝撃を受けた。
狂は手を緩めない。さらに瞳をぎらつかせて畳みかけてきた。
「ソードアーツ鎖の刃!」
「戦いのペースが早い!」
空良はなるべく力を温存する戦いを選んでいたが相手にその気は無いようだ。容赦なく力を振るい、試合が始まって早々スキルを発動させてきた。
黒塗りの二本の短刀から鎖が飛び出す。それを狂は手に取って素早くぶん回した。
鎖に繋がれて左右から迫る漆黒の刃を空良は左は伏せて右はそのまま四つん這いの体勢のまま上に跳んで避けた。
剣を持ち直して体勢を立て直した時にはすでに黒塗りの短刀は狂の手元に戻っていた。
「スパイラルカッター!」
すぐに投げつけてくる。あの剣は飛び道具なのか。
二本の漆黒の刃が鎖の尾を引いて相互に円の起動を描きながら飛んでくる。これぐらいの単調な動きなら一本の剣だけでも落とせる。
空良は精神を集中させて一刀の薙ぎで二本を同時に斬ろうとするが、不意に空良の手前でその二本の剣の描く円が大きく広がった。空良の剣はその中心で空振りをした。
「え!?」
まさか空中に投げられた物が途中で軌道を変えるなんて思わない。だが、現実がここにある。空良は注視する。自分の右上と左下を。
二本の漆黒の刃がこちらを今にも狙おうと先端を向けながら空中に静止している。狂は不気味に笑った。
「先輩、二年目なのにソードアーツがただの鎖と同じだと思っているのかよ。この鎖はな、アタシの意思を伝えて先の剣を自在に動かすんだよ!」
鎖が狂の意思を伝達し二本の剣が突っ込んでくる。空良はまともに正面からそれを受け、会場に悲鳴が上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます