第8話 少し休憩

 一回戦の第一試合の終わった時間、空良は人々の歓声で賑わうグラウンドの会場を離れて校舎の中庭に来ていた。

 静かな場所で落ち着きたかったのもあるし、二回戦が始まるまでに見直したい事があった。

 さっきの一回戦は勝ちこそしたものの空良にとっては決して満足の行く試合展開ではなかった。

 一年生を相手にソードアーツを使ってしまったし、思わぬ苦戦を強いられてしまった。このままではこれからの戦いも覚束ない。休んでいる間に少し自分の戦いを見直しておこうと思った。

 校舎横のコンクリートに腰掛け、剣を一本抜いて土の地面に向ける。弱い風を巻き起こして小石を宙に浮かせた。


「よし、スキルは上手く使えているね。今度は二本でやってみるか」


 そうして空良が二本目の剣を抜こうとした時だった。よく知っているクラスメイトの呼ぶ声が聞こえて空良は剣を止めた。舞っていた小石がパラパラと地面に落ちていく。

 やってきたのは乃々だった。


「ソラヨシこんなところにいた。去年もここにいたよね」

「うん、ここは人がいなくて静かだから。乃々ちゃん、どうしたの?」

「もう一回戦の勝利を喜び合おうと思っていたのにソラヨシがいないから探しに来たんじゃない」

「ありがとう」


 一年生を相手に一回戦を勝ったぐらいで大げさなと思ったが、ありがたく受け取っておく。二人喜び合ってからその場に腰掛ける。乃々は嬉しそうだった。


「幸先のいいスタートを切れたね。さすがはソラヨシ、うちのクラスのエースだわ」

「あまり良くはないかな。一回戦からソードアーツを使っちゃった。それも一年生を相手に。あまり本気を出すつもりはなかったのに」

「それは二年生の余裕ってやつ?」

「去年はあたしも一年生だったからね。考える事はあるよ」


 空良はもっと上手く効率よく立ち回れるように戦い方を考えようと思うのだった。そうでなければこれからの格上を相手には勝ち抜けないだろう。

 乃々と一緒にしばらく休憩する。空が静かだ。隣の少女に向かって訊ねる。


「乃々ちゃんは試合を見に行かないの?」

「ソラヨシこそ。戦いを見て参考にはしないの?」

「あたしは今は自分が上手くやる事だけでせいいっぱいだから」


 今年こそ失敗しないように上手くやりたい。それが今年の空良の目標であり、他人の事にまで意識を向ける余裕は無かったのだが、言われてみれば気になってきたので空良は行こうと腰を浮かせかけたのだが、


『二年生の一条空良選手、試合の時間となりましたのでグラウンドまでお越しください』


 その前に放送で呼ばれて慌てて驚いてしまった。


「もう出番!? 早くない!?」

「今年は決着が付くのが早いみたいだね」


 去年はもう少し時間があったはずだ。まさかの早さにろくに練習も出来なかった。

 でも、呼ばれてしまったなら急がなければならない。ここからグラウンドまではちょっと距離がある。喧騒から離れた静けな場所を選んだ結果だ。


「急ぐよ!」

「うん!」


 空良は乃々と一緒にグラウンドに向かって駆けるのだった。

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