第6話 試合が始まる

 テストは実戦形式で行われる。1対1で戦い、勝った者が次に進める。最後に残って優勝した者が代表だ。

 大会がこの形式なので試験もこの様式に則っていると空良は聞いた。シンプルでいいと思う。一回戦の第一試合から順番に試合をする。まずは一回戦に出場するのは……


『一条空良選手 VS 岩中聡美選手! 始めてください!』

「あたしだったか!」


 前もって籤は引いていたが、自分の戦いの進め方ばかり考えていて注意が疎かになっていた。

 あまり去年の反省ばかりに気を取られるのも良く無い事だ。これからの戦いに集中しよう。

 空良は覚悟を固めて急いで運動場の中央に立つ。大勢の人達に見守られた舞台。この空気久しぶりだ。


「帰ってきた気分がするね。今年こそ君を使ってあげるからね」


 空良は腰に下げた二本の剣に手を触れた。そう待つことはなく相手もやってきた。重い岩のような地響きをグラウンドに立てながら。

 それは比喩では無かった。

 来たのは空良が見上げるほどに大きな岩のゴーレムだった。その姿に空良は驚きはしない。ただ別の事に驚いただけだ。


「試合前からソードアーツを使っている!?」


 ソードアーツとは剣士が使える特別なスキルで女神の加護とともにこの世界に伝えられたと言われている。空良は剣で風を操れるが、相手の選手は岩を使えるようだ。

 なるべく決勝までは力を温存したいと空良は願っている。だから、相手の選手が試合前から力を使っている事に驚いたのだが……


「準備運動だと思えばそれもありなのかもしれないね」


 空良は今日一日まだスキルを使っていない。それが吉と出るか凶と出るかは分からない。これだけのソードアーツが使える。相手がただ者でないのは理解した。

 これほどの注目のある舞台に出ようというのだ。生半可な相手ではないだろう。

 対戦する少女は空良の前まで来てから技を解いて姿を現した。


「失礼、試合前で気分が高ぶってしまってつい技が出てしまったのです。一年生の岩中と申します」

「二年の一条空良だよ。今日はよろしく」


 対戦相手は眼鏡を掛けて髪を三つ編みにした真面目そうな少女だった。一年生なら緊張するのは無理もないかもしれない。去年の空良もそうだった。

 校舎の隅で試合前の待っている時間に剣で風を起こして小石を浮かべたりしてそわそわしていた。今年はそんな事はしなかったが。

 少しぐらい慣らし運転をしておいた方が良かったかもしれないが、もうそんな時間はない。試合が始まる。審判の合図とともに。


「始め!」


 笛の音が鳴ってバトルスタートだ。いよいよこの時が来た。まだ一回戦で相手は一年生だが油断はしない。

 今年の空良は勝負を急がない。先に動いたのは聡美の方だった。

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