第5話 時が来る
二時間目の授業が終わった休み時間。もうすぐ大会に出場する代表を選ぶテストが始まるので午前中の授業はもうない。
学校の生徒達はこれからの代表になるかもしれない選手達を応援してもいいし、適当に校内で午後の授業が始まるまで時間を潰してもいい。
ただし、校外に出るのは禁止である。こんなところは中学校らしい。大人達は子供をいたずらに平日に遊ばせてはくれない。
それなりに歴史の長い注目度のある大会だ。校内で時間を潰す手段にも限りがあるのでだいたいの生徒達は応援に出る者が多くなる。
いつも通りの学校もさすがに時が近づいてくると興奮の空気が持ち上がってくる。出場しない生徒達もそれの雑談をし始めた。
空良は待ち望んだ時が来るこれからの緊張を胸に、教室の自分の席で座ったままリラックスする事を試みていた。
「あたしは落ち着いている。落ち着いているよー、ブツブツ……」
ここまで上手く行ったのだ。このまま試合に臨みたい。
そんな風に精神を集中させている空良に、乃々がいつもの友達らしい明るい笑顔を覗かせて話しかけてきた。
「いよいよだね、ソラヨシ。準備はもう万端に出来てる? 平気そう?」
「うん、平気。そう何度も心配しなくても大丈夫だよ、乃々ちゃん。このテスト去年もやったんだから」
「ソラヨシは凄いね。去年に続いて今年まで挑戦するなんて。わたしだったら緊張してエントリーなんて出来ないよ」
「チャンスがあるんだもの。掴まないとね」
言いながら空良も緊張しているのは事実だ。出場しなければみんなのように気楽でいられただろう。でも、やると決めたのだ。
この学校のみんなに勝って代表になる。去年の雪辱を果たすと。
そんな風に話している二人に、今度は寧々が近づいて声を掛けてきた。
「もう乃々。試合前なんだからあんまり空良の邪魔しちゃ駄目よ。空良、こいつが邪魔なら遠慮なくわたしに言っていいんだからね」
「寧々ねえ、わたしは邪魔なんてしてないって」
「どうなんだか、乃々は肝心なところが抜けてるからなあ」
「もう、抜けてるところがあるならそれは寧々ねえが取ったからだって」
「ありがとう、二人とも。あたしは大丈夫だから。平気で頑張れるから。へっちゃらだよ」
友達と話していると気分が楽になってきた。去年みたいに廊下の隅っこで一人で集中しているより良かったかもしれない。
そうして休み時間を時が来るのを待っていると、放送で連絡があった。
『選抜試験を受ける生徒達は用意をしてグラウンドに集まってください』
いよいよ時が来た。空良は決意を胸に立ちあがる。
「よし、行ってくるよ」
そんな少女にクラスのみんなの視線が集まった。何だかんだで歴史のある注目度のある戦い。みんなの関心も高かった。
「ソラヨシ頑張れ」
「まあ、ほどほどに頑張りなさい」
「君なら優勝できる」
「目指せ! 全国制覇だ!」
「ありがとうみんな。勝って帰ってくるからね」
クラスメイト達の応援に送られて、空良はテストを受ける準備をしにまずは更衣室に向かった。
去年もやったテストなのでやる事は分かっている。
更衣室に入って制服を脱いで着替える。学年別に用意された更衣室、空良と同じ二年生で受けるのは数人だけのようだ。
着替えながらそれとなく周りを見ていると、近くにいた女子生徒がにんまりと笑んで握手の手を差し出してきた。
「今日はお手柔らかに。先輩」
「先輩? 同学年だけど」
ここは二年生の更衣室のはずだ。相手は笑って言ってきた。
「アタシは去年出なかったからね。だからあんたが先輩さ」
「そういうことね。こちらこそ今日はよろしく」
どうやらここには去年の空良の事を知っている人もいるらしい。同じ学校だから当然かもしれない。今年こそ本当の自分の実力を見せてやる。
空良は決意を新たにして着替えた体操服の上から簡素な防具を身に付けていく。
大会に出る代表選手に選ばれれば大会用の衣服を与えてもらえるが、今はまだ練習用のこれだけだ。
今年こそ優勝を目指して。空良は更衣室を後にした。
空良がグラウンドに出るとそこにはすでに大勢の人達が集まって賑わっていた。まるで運動会のような盛り上がりだ。ただの大会に出る代表選手を決めるだけのテストなのに大層な盛り上がりようだ。だからこそ腕に自信の無い生徒達は遠慮してしまうのだろうが。
空良は去年に続いて今年も出る。今年こそ優勝だ。
始める前に校長先生が壇上に立って挨拶する。歴史と伝統のある大会だ。恥じないように素晴らしい戦いをするようにとかそんな話をされた。
空良の意識にはもうこれからの戦いの事しかない。去年の代表としてまどかが宣誓を述べた。
そして、いよいよ戦いが始まる。空良達は一旦会場を出て一人ずつ戦っていく事になる。
みんなに試合を見られる。空良はやる気を奮い立たせるのだった。
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