葉桜の由来 (下ノ三 落葉)
その間、毎日送られてくる『消息不明』の手紙は部屋の
さらに一月が経った。私は山のように積もったその手紙を焼いた。
「姉さん……」
和子も、もう私に励ますようなことを言わなくなった、それでよかった。話しかけてほしくなかった。
朝、目を覚まして数時間、外の様子をしきりに確認しながら過ごす。
正午前になって手紙が届き、誰かが見る前にそれを受け取り、開く。
「また……」
郵便受けの前でうなだれて、重たい足取りで家に戻る。
その繰り返しだった。
「お姉ちゃん、すごい疲れてない?」
夕食時、
私が卓上を見つめたまま何も言わずにいると、サクが遮るように「お料理してるから、疲れちゃうんだよ」と言ってくれた。
そう言うサクも、私の様子を不審に思っているようだったが、それを聞くことは無かった。母も同様だった。
失意とともに私は布団に入る。
しかし、精神の
死んでしまったのなら、どうしてその遺体が見つからないのだろう。生きているのなら、どうして彼はいなくなったのだろう。
全て嫌になってしまったのだろうか。軍隊に行くことも、農家での暮らしも、私との関係も。
だからって、何も言わずに姿を消すなんて、ひどすぎる。
彼にとって私は、その程度の存在に過ぎなかったのだろうか。相思相愛と口にはしないけれど、そう思っていたのに。だからこそ、あの祭りの日、泣いてくれたんだと思っていたのに。それなのに……。
妹たちに気付かれないように、掛け布団の中で私は泣いた。
人の思いなど知らずに時間も世間も進み、あの頃はまだ花の混じっていた
しかし、それもすぐに、枯れてゆくんだろう。
汗が滲むのもかまわずに布団の中、丸くなって私は泣き続ける。
そうしていると、必然的に眠るのは遅くなる。だから、疲れているなどと言われるのだろう。
*
浅い眠りから目を覚ます。朝食を取り、学校に行くサクと彬子を見送り、手紙を受け取る。手紙を開き、また溜め息を吐く……。
そう思っていたが、今日は違った。
『消息不明』の単語の代わりに、そこには、
それを読んだ私は、膝から崩れ落ちた。
『大内村の、
「あああああ……」
『勝手ながら、昨晩のうちに、
「実和さん」
母が私の方に
「どうしたんです」
「お母様……。いえ、なんでもないです」
手紙を握りつぶし、着物の
背後で「実和!」と呼ぶ声がしたが、構わずに私は走り続けた。
当てもなく走っていたつもりが、きづくといつもの堰堤にいた。
無常な、無情な大河の流れ。その向こうに彼の村。頭上ひらひらと彼の好きな葉桜の雨。
今はそうじゃなくて、
もはや
希望を持っていたのが、馬鹿らしく思える。逆に何で生きていると思えていたのかと。
川が流れていく。とどまらず、何もかもを流していく。
「志美川……」
それはこの川の下流にある支流の一つだ。
なら、私のことも連れて行ってくれる?
それなら、あなたの所へ行ける?
一歩、堰堤の下に足を進める。
「光次郎さん……」
さらに一歩、一歩、一歩……。
「うぁっ」
突然に、身体が沈んだ。急に川底が深くなったのだ。
手足をばたつかせて、私は
しかし、藻掻くだけでは何の意味もなく、私の身体は、下流へと流されていった。
水の中、確かに瞳を開いたはずなのに、見えたのは底なしの暗闇だった。
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