疑念の追及

 深月は大きく目を見開き、頭を振った。


「そんなわけないじゃないですか! どうしてそうなるんですか!」


 焦りとも悲愴ともとれる表情で俺の顔を真っ直ぐ見つめている。


 可能性として考えていたことではあった。

 前回の交通事故の時も今回の一酸化炭素中毒も、どちらも不自然な事がある。


 前回のそれは、直前に聞こえた俺を呼ぶ声、だ。

 それに釣られ俺は後ろを振り返り、結果事故を起こしてしまった。


 今回は俺と彩が感じた強烈な睡魔、だ。

 いつどのタイミングでどんな方法かは知らないが、それにより妹も俺も眠りにつき、中毒を起こしてしまった。


 誰かが俺を殺そうとしている。

 要するにこういう結論に行きつく。


 とどめはあのアラームだ。


「そしたら一つ訊くが、どうして俺の携帯にアラームをセットした?」

「それは、夏樹さんを助ける為です!」

「じゃアラームが無かったら俺はどうなっていたんだ?」

「だからそれは、眠ったままになってそのまま中毒死を……」

「眠ったまま? どうして俺が眠る事を知っていたんだ? お得意の予知能力か?」

「…………」

「それとも、俺らを眠らせたのはお前、だから知っているのか?」

「だから違います! 私そんなことしません!」


 嘘を吐いているようには見えない表情で深月は前のめりになった。


 カーテンの向こうからわざとらしい咳ばらいが鳴った。

 病室なのを忘れていた。


 声のボリュームを落として、俺は続ける。


「俺だって、深月の事は信用したいさ。二度も助けられているのは紛れもない事実だし、殺そうとするような人間には見えないしさ」


 あの日膝に落とした涙も嘘とは思えないし。


「だが、明らかに俺に不利な事が起こっているだろ? 今回なら謎の睡魔だ。特段寝不足でもなかったのに妙な睡魔が急に来たんだ。そしてお前はそれを知っていた。これはどう説明がつく? お前が仕込んだことなら説明がついてしまう。それとも予知能力で全部わかってたって事か?」


 この言葉に深月は俯き、口を噤んだ。

 しかし答えに窮したのではなく、何か考えている素振そぶりだった。


 どこかから鳴る秒針の音だけがしばらく響く。

 携帯を取り、時刻を確認する。十九時五十分。


「わかりました」


 声の方向に目をやると、熟考を終えた真剣な面持ちの深月が俺を見つめていた。


「なにがわかった?」

「言えるところまで、全部本当のことを話します」 

「自首する気になったのか」

「だから違いますってば!」


 必死な深月を見て俺は少し吹き出して笑ってしまった。

 しかし安堵にはまだ早い。


 いいだろう、聞いてやろうじゃないか。

 納得のいく説明を頼む。

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