疑惑?の彩

 家には鍵がかかっていた。

 という事は妹もまだ帰ってきてはいないという事だ。


 自転車の鍵と同じキーチェーンから家の鍵を取り出していると、


「おお、兄ちゃんも今帰ったのね」


 背後から妹の声がした。


 解錠とともに、俺は素早く振り返り身構えた。

 さながら太極拳でもやりそうな格好でだ。


「何してんの?」

あや、お前、俺に恨みとかないか? 殺したくなるほどすごいやつ」

「はぁ?」


 夕日の逆光で表情が読取れない。


「兄ちゃん何言ってるの、頭おかしくなった? いいからどいてよ!」


 彩の見えない顔から目を逸らさずに、蟹歩きで回り込むようにドアを離れた。

 百八十度反対側に来た時に見えた俺を見つめる彩の顔は、霜が付きそうなほど冷たい表情だった。


「え、キモチワル」


 鋭利な言葉がグサリと心に突き刺さる。兄ちゃんショック。

 しかしそれでもしっかりと間合を取る俺を蔑視しながら家に入っていく彩。


 戸の閉まる大きめの音が鳴り、一人取り残される俺。

 依然ポーズは太極拳だ。

 少し強い風が肌寒い。


 まあ、そんな訳がないか。

 いくらなんでも死因が妹の殺人ってことはないだろう。

 警戒した自分が馬鹿らしくなり、己を鼻で笑った。


 と同時に、ガチャリ、と戸の錠が内側から掛けられる音が鳴った。


 おーい…………。

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