見えない恐怖
いろいろな後ろめたさや気まずさから逃げるように保健室を後にした俺は、残り少ない昼休みを費やして深月を探すことにした。
雪が笑顔で言い放った、
「
という言葉が少々怖かったっていうのもある。
一緒に過ごしたい欲はあったが、誰にでも知られたくない見られたくない事はあるだろう。
『えー、内緒ー』
いやー、意識が薄らぐ程可愛かったな。
上がりそうな口角を気合で抑え込みながら、屋上に向かった。
そこに深月が居る気がしたからだ。
だが、この予想は空振りだった。
いつの間にか居なくなっていた数名の生徒は再び確認できたが、それらしき姿は見当たらない。
昼休みの残り時間を確認するために携帯電話を取り出そうとすると、いつものスラックス右ポケットに入っていない。
落としたかと一瞬ヒヤリとしたが、ペタペタと自身の身体を触るとブレザーの右ポケットにその重みを感じて安心した。
十二時五十六分。
あと四分しかない。
混ざり合う感情を一旦飲み込んで教室に戻ることにした。
これから具体的に何が起こるのか、いつ起こるのか、どう対処すべきなのかさっぱりだった。
今回はアイツのアドバイスすらない。
言われるがまま体重を量っただけだ。
それに何の意味があるのか、その思考が脳を独占し、午後の授業が頭に入るわけもなく放課となった。
やはりあの交通事故でのアドバイスは偶然の合致で、深月は運のいい電波ちゃんなのではないか、という考えと、しかし一度的確なアドバイスをされている以上、今回もどういう訳かは知らんが俺に降りかかる災いから助けに来たのだろう、という考えがぶつかり合って熱でも出そうな気分だった。
しかしだ。
予防線を張るに越したことはない。
自転車の鍵を開けながら、再び屋上に目をやる。
一体深月はどこに行ったんだろう。
向かい風をしっかりと浴びながらの帰路、俺は慎重に慎重にペダルを回した。
死の宣告をされている以上、いつどこで何が起こるか分からない。
サイクリングとは別起因の汗が頬に垂れるのを感じ、俺は恐怖しているのだなと自覚した。
そりゃそうだ。
これから死ぬかもしれないのに怖くないやつなんかいるか。
いつも見切り発車気味な信号も、横断歩道の無い道路を渡る時も、これでもかという位慎重に辺りを警戒した。
そのおかげかは知らないが、無事に自宅へと帰り着くことができた。
いつもの倍かかった時間も命とはくらぶべくもない。
家に着いてしまえばこちらのものだ。
事故の要素など見当たらないからだ。
まさか怒り狂った妹に刺されたりしないよな?
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