第4話

「二つ目の嘘は何?」


 彼女に聞く。彼女は振り返り、言った。


「いつもここら辺でバイバイしてるよね」

 確かにそこは僕らが分かれるところだった。しかし、彼女は二つ目の嘘を隠し通そうとしているのだろうか。


「逃げるのか?」

 僕は茶化した調子で言う。彼女は僕と正面で向き合うような格好になる。目は真っ直ぐとしていた。


「逃げないよ。じゃあ最後の嘘。私の家はね。全然ここら辺じゃない。むしろ学校挟んで真反対にあるくらいだよ」

 彼女は来た道を指差す。僕は訳が分からなくなる。


「なんでそんな嘘ついたの」

「だって君と帰りたかったから」


 彼女はそう言い残して駆けるように来た道を引き返してしまった。革靴の音がリズム良く遠くへ消えて行った。


 意味がわからない。やっぱり彼女は僕と全く違う。僕は思っていた。


 気づけばもう周りは薄暗かった。夏を惜しむようなひぐらしが延々と鳴いていた。

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帰り道の青春 矢凪祐人 @Monokuro_Rekishi

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