第45話
「やった! 勝ったぞ!」
エボ型二〇〇式の視覚センサーをすべて破壊し、カイは勝利を確信した。
これで有島フロートを戦場にせずに済む。そう思った時だった。
「まだだ! 西郡(にしごおり)カイ!」
エボ型の背面、直付けされたコンソールのコクピットの入り口が爆発したかと思うと、セイヨウがシートベルトを外して頭を出したのだ。
「!? 肉眼での有視界か!」
カイは慌てて別の攻撃手段を探るも、手元にボールはない。できるとすればエクスボットによる肉弾戦くらいだ。
ただそうなればエボ型を止め方法はひとつ。コクピットのセイヨウを叩き潰す。それだけだ。
そうなればエボ型を止められたとしても、エクスボットによる殺人という大罪を自分とエクススポーツ界に背負わせることになる。
それはダメだ。
「俺を止めて見せろ。そう言っただろう」
後はコクピットを破壊するしか方法はない。だが、どうする。最悪でもセイヨウをそこからはがさなくては無理だ。そしてセイヨウは力ずくでもなければ死んでも離れないだろう。
カイはエボ型が動くその一瞬、人生の記憶全てを振り絞るような走馬灯が流れていた。
「あー、くそっ!」
そうして導き出したのは、なんと無謀な行為だった。
カイはアグロコメットを操作し、がむしゃらにエボ型へ組み付いたのだ。
「何っ!?」
アグロコメットのそのかぶりつきは偶然にも絶妙な位置だった。エボ型の上半身による旋回で振り回されず、銃口の懐で発砲もされない。更にエボ型の重心を捕らえた見事なものだった。
けれども、それでどうなるというのだ。
「がむしゃらだな。それで何をするつもりだ」
セイヨウはエボ型の両腕を上下させてアグロコメットを殴りつける。しかし、腕の伏角は十分ではなく、アグロコメットの背部にあるブーストパックをへこませただけだった。
「ならそこで一生もがき苦しんでろ。俺は、俺の道を征(い)く!」
エボ型はアグロコメットを振り切るのに時間がかかると考え、別の行動に移る。
それは陸自の戦闘ヘリの迎撃だ。
「させるかああああああ!」
アグロコメットは全身の体重を乗せ、エボ型に力を入れる。
そこでやっと、セイヨウはカイが何をしようとしているか気づいた。
「馬鹿な。投げるつもりか? スポーツ用で戦闘用を?」
エボ型の装甲はアグロコメットのアルミ合金装甲の約3倍以上、それも武装や弾薬を除いた想定重量だ。
そんな質量の違うエボ型を、アグロコメットは抱え込んで投げようとしていたのだ。
「ゲームセンターでの意趣返しのつもりか、それともトンチのつもりか? どちらにしろ」
エボ型はアグロコメットに構わず、戦闘ヘリを撃墜しようと砲身を回した。
その時だった。
「私たちはまだ諦めていないわよ!」
無線から声がしたかと思えば、遠方から何かが飛来する。
それはシューターボールのボールだ。
「何っ!?」
アグロコメット以外のエクスボットは全滅した、と油断していたエボ型は気を取られて動きを止めてしまう。
「ナオ! オクター! まだ動けたのか!?」
ボールの発射地点には四肢が右腕しか残っていないオクターがいた。装甲はどこも穴だらけで、むき出しの配線からは火花が散っているものの、動いていた。
オクターの1投はその有様に似つかわない、重く、冴えた真っすぐな一撃だった。
しかもそのボールの行く末はアグロコメットの上を正確に越え、エボ型の左肩に吸い込まれていったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
エボ型は左肩にボールを受け、左後ろにのけ反る。
その決定的な瞬間を、カイが、アグロコメットが、逃すはずはない。
アグロコメットはエボ型の右ひざの後ろを掬(すく)い取り、エボ型の左の腰部分を右肩で押す。
それがアグロコメットのできる、全身全力のすくい投げだった。
「――まさかっ!?」
エボ型は傾き始めた。
重力とボールの勢い、アグロコメットの全体重、カイとナオの執念。それらがエボ型の重量とバランサーを揺り動かしたのだ。
「ああああああああああああ!」
エボ型は綺麗な半円を描き、右肩から地面に投げうたれた。
「俺は――」
巨大な遠心力により、むき出しの状態にあったセイヨウは支えを失くしてコクピット外に放り出された。
セイヨウは放物線を描き、地面に衝突してダルマのように転がり、地に伏せた。
「しまった! セイヨウは」
セイヨウは、地面の上でアグロコメットのスピーカーに入るほどの絶叫で喚き、芋虫のように動いていた。どうやら一応は生きているようだ。
「……やった」
セイヨウはもうコクピットに戻ってエボ型を動かせる状態にない。
これでやっとカイの、カイたちの勝利だ。
「止めてやったぞ! 松葉セイヨウ!」
カイはアグロコメット共に空を仰ぎ、そのボロボロな身体を後ろ倒しにして倒れたのだった。
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