第44話
かつてカイとナオが準決勝をした平面のエリアは、変形がオフとなっており何もない。その代わりにフィールドの上では3機のエクスボットが相まみえていた。
1機はカイのアグロコメット、中古機体の寄せ集めでありながらも決勝まで勝ち上がった猛者だ。もう1機はヨウコのロウニン、去年の賞金ランキング1位を飾った切れ者である。
そして最後の1機はテロリストのセイヨウが乗るエボ型二〇〇式だった。
「ここで止めます!」
時間が圧縮されたような刹那の瞬間、最初に仕掛けたのはヨウコのロウニンだった。
ロウニンはボールを救い上げるように構えつつ、エボ型の5時方向から接近した。
その構えはヨウコが得意とする居合投げだ。
居合投げとはパイルボールをアンダースローで繰り出す、ヨウコを含めて少数しかできない大技だ。
ロウニンは極めて絶妙なタイミングで肉薄し、その技は無防備なエボ型の背部カメラを傷つけると思われた。
「っ!?」
だがそうは上手くいかない。エボ型は砲塔を向ける時間がないと判断し、ブーストパックに備わっていた対ミサイル用のフレアを放出したのだ。
ロウニンとて、フレアで破壊されるほど脆くはない。しかしフレアによってヨウコの視界は一時的に阻害された。
「このっ!」
ヨウコはそれでもロウニンの腕を振り切りボールを投じる。ただしそんな状態では、居合投げに必要なリリースのタイミングをはかるのは不可能だった。
ロウニンのボールはエボ型の背部カメラを粉砕するも、同時にロウニンの右腕部がブーストパックの装甲にぶつかって完全に破砕した。
これでは次の投球ができない。ロウニンの攻撃手段は失われた。
「まだまだです!」
ロウニンは戦線離脱、と思われたがそうはしない。ヨウコはロウニンを操作して左腕部をエボ型の肩に伸ばした。
ロウニンはそのまま右肩を掴むと、なんと身体を捻り右脚部でエボ型の頭部カメラを蹴り上げたのだ。
「悪あがきを……!」
エボ型の頭部右側面のカメラがロウニンの右脚部と共に破壊されたが、まだ正面カメラとレーダーが生き残っている。
セイヨウは戦闘を継続し、振り払うようにエボ型を旋回してロウニンを弾き飛ばしたのだ。
「悪あがきなんかじゃないですよ」
エボ型の銃口がロウニンを狙い定め、銃火が吹き上がる。それにより、ロウニンは他の各部を鉛玉によって食い散らかされた。
「これは繋ぎ、真打はあとから来るのですよ!」
ヨウコの無線に、セイヨウはハッとなって気付く。けれどももう遅い。
エボ型の射撃によって生まれた隙に、残されたただ1機のアグロコメットが背面から飛び込んだのだ。
「まずはレーダー!」
カイはアグロコメットに両手でボールを握らせ、頭部天頂に生えているアンテナを叩き潰した。
おまけに上からの衝撃を逃せないエボ型はその一撃によろめいたのだった。
「次っ!」
ロウニンが投げたボールは計算されていたのか、アグロコメットのすぐそばを跳ねており、すばやく補給する。
その続けざまにアグロコメットはエボ型の正面に回り込み、今度は下からの投球でパイルボールを繰り出した。
これはヨウコと同じ技、居合投げだ。
「調子に乗るな! ボール遊びで止められるものか!」
正面に回ればエボ型とて両腕で正面カメラを守れる。そうなれば強力な居合投げでも僅かに腕を跳ね上げるだけしかできなかった。
いや、それでいい。そのわずかな隙間にボールさえ入ればカイたちの勝利なのだ。
「こぼれ球!」
両手パイルボールで戻ってきたボールに対し、超人的な反応でアグロコメットの左腕部が伸びる。
「これで」
おそらく本当の最後の1球になるであろう1投を振りかぶり、アグロコメットはボールを投げた。
魂のこもったそのボールは両腕部をこじ開けた小さな空間へねじ込まれる。
しかもそのボールはストレートではない。錐もみに回転するカイ独自の変化球、ジャイロボールだ。
「終わりだ!」
エボ型は回転するボールを防御できず、ディフェンスを掻い潜った一撃はエボ型の頭部正面カメラを爆砕したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます