第43話

 緑色のうねりで覆いつくされたジャングルは、カイたちをその恩恵によって迎え入れてくれた。


 何故なら、機動力の高いスポーツ用のエクスボットには人工から天然に変わっただけで移動が困難ではない。その一方、エボ型にとっては違った。


 エボ型は軍用、それにより武装したものは大きな枷となり速さを犠牲にしてる。そうなると当然、ジャングルのような無舗装地帯では前進が難しくなってくるのだ。


 それでもエボ型にもブーストパックが付いているため、完全な停止はしていないかった。


「ブーストパックの排出口は狙えないか?」


「難しいわね。何せ相手はほとんど低空機動、高く飛んでくれないと狙えないわ」


 ナオの言う通り、ブーストパックはエボ型の背面下部を向いている。それならば狙撃するのに下から見上げる角度が必要となる。


 カイたちの投球は基本的にオーバースロー、すると角度は必ず上からになるためぶつけるのは極めて困難だった。


「居合投げならどうだ?」


「それも難しいです。向こうも接近を警戒していて懐に飛び込めないです。牽制しつつ狙いますが、あまり期待しないでくださいね」


 ヨウコの居合投げはアンダースローからのパイルボールだ。それならば上向きの角度で相手を狙えるため、可能性はないワケではない。


 しかし肉薄するにはあのセイヨウの警戒を抜けて不意打ちをするしかない。ただセイヨウもそれは分かっているのだろう。その隙が無い。


「これは断念するしかないな……。さっきの作戦通りいくぞ!」


 ならば、とカイは作戦の継続を告げた。


 先ほどまでの作戦と言うのは、ジャングルの陰に隠れながらエボ型の弾薬を消費させる戦略だ。


 これだとエボ型の弾薬を減らし、尽きかければ攻撃機会をを減らせる。そうすれば、よりエボ型への攻撃がしやすくなるはずだ。


 カイたちはエクスボットを操り、縦横無尽にジャングルを飛ぶ。目の前でウロチョロされてエボ型も攻撃せざるを得なく、確実に弾薬を消費させていった。


 けれどもこのままではラチがあかない。セイヨウもこちらの作戦を呼んでおり、弾の消費は最小限にしている。これではタワーに付く前に弾を使い切る可能性はゼロに近かった。


「くぞっ。何か決定打はないか」


 カイが頭を回転させも、いい考えはそう生まれるものではない。


 そうしていると、カイたちの上空からバリバリと空気を掻きむしるような音が降ってきたのだった。


「!? 陸自の戦闘ヘリよ!」


 ナオは音だけで正体を把握する。


 念のため一番上にいるカイがアグロコメットに確認させると、そこには確かに戦闘ヘリが3機編成で飛んでいた。


「もう時間がないですよ。この後はジャングルを抜けます。そろそろ決着を決めないと――」


 そう、決着を決めなければ待っているのは自衛隊とエボ型に乗ったセイヨウとの戦闘だ。そうすればこの有島フロートは戦場になってしまう。


 国の介入、それが意味するのは全エクススポーツの立場の危機に繋がりかねないのだ。


「どうする? どうする……?」


 自衛隊がエボ型に手を出さなければ、元エクススポーツプロプレイヤーが自衛隊と戦闘、という最悪の状況は避けられる。そのためにはこの3機のエクスボットで現状をどうにかするしかない。


 カイは悩み、悩み抜いた。そうしてでも時間と言うのは無情で、エボ型はついにジャングルを抜けてしまった。


「!? エボ型が反転!」


 エボ型は脚部のローラーを回し、正面を後方に向ける。そこにはカイたちだけではなく、上空に戦闘ヘリがいる。


「戦闘ヘリを攻撃する気か!?」


 カイがエボ型の所業を止めるべくブーストを噴かすも、間に合わない。


 エボ型はカイたちを待たず、上空に銃口を向けてバババッと銃に火を噴かせた。


「――! 後は頼むわよ!」


 オクターがエボ型と戦闘ヘリの間に飛び出し、身を晒す。確かにそれならエボ型の銃弾を防げるだろう。だが割って入ると言うのは自殺行為だ。


 おかげで空中のオクターを巻き込み、銃弾が破裂して機体はボロボロになる。


 それによりオクターの脚部と上半身のほとんどが霧散し、オクターは破壊されてしまった。


 ただしその甲斐もあり、戦闘ヘリに銃弾は届いていない。


「ナオ! ――このチャンスを逃さないぞ! ヨウコ」


「もちろんです」


 エボ型が空に砲身を向けたおかげで、その懐にカイのアグロコメットとヨウコのロウニンが飛び込む。


 これはおそらく、この戦い最後のチャンスだ。


「ここで止める。覚悟しろ、セイヨウ!」


 カイたちの最後の攻撃、その濃縮された時間が今始まった。

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