第42話

「動いたぞ! 鉢合わせには注意しろ」


 大会会場のひとつである都市群のフィールドでは、おそらく前例を見ない異色のロボットバトルが続いていた。


 片側は銃で武装し、もう片方はボールを武器にしている。こんな戦いは銃規制が終わらない限り次は永遠にないだろう。


 カイたちはボールで銃に立ち向かうという奇妙な体験への感慨よりも、エボ型の銃弾を受けないように立ち回るのが精いっぱいだった。


 エボ型、正確にはエボ型二〇〇式は主犯である松葉セイヨウを乗せ、大通りを滑走し始めていた。


「次の足止めは誰が行けそうだ?」


「俺が行けるぜ! 左側の死角から攻撃を加えていいよな?」


「構わない。だが慎重に行ってくれ」


 カイとセイヨウは作戦を伝達すると、再びビルの一区画先でエボ型の進行を妨害しようと動いた。


「ん?」


 だがその作戦は実行されなかった。何故ならば走行していたエボ型が急に道路の中心で立ち止まったからだ。


「何だ? エンジントラブルか?」


 カイはエボ型の突然の挙動に動きを止めるも、タクヤは別だった。


「なんでもいい! チャンスなら仕掛けるだけだぜ!」


 タクヤはコメディアンを操り、エボ型の壊れたカメラによる死角、左側から攻撃を仕掛けに行く。


 しかしそれは早計だった。


「待ってください! エボ型にはまだレーダーが――」


 ヨウコが忠告するも、もう遅い。


 エボ型は左側面にコメディアンが飛び出したのを皮切りに、全身の武装をそちらへと向けた。どうやらレーダーの大まかな反応でタイミングを見計らっていたようだ。


「う、うおおおおおお!?」


 タクヤは慌ててコメディアンに回避を指示するも、間に合わない。


 エボ型は4門の武装でコメディアンへと弾幕を張ったのだった。


 当然軍用のエボ型の砲火に晒されたコメディアンはひとたまりもなかった。一瞬のうちに右腕と左足が四散し、球体上の動体は円形の銃痕が貫通していた。


 しかも発砲による勢いを殺せず、コメディアンは無惨にもビルの壁面へと叩きつけられ、地面へと横たわったのだ。


 これはもう、コメディアンの参戦は不可能だ。


「クソッ! 面攻撃のおまけつきかよ! すまねえ、皆! ……ちくしょおおおお!」


 タクヤは無線で謝ると、申し訳なさか邪魔をしないためなのか、チャンネルから外れてしまった。


「……いや、タクヤが動かなければ俺が犠牲になっていたかもしれない。ありがとう、タクヤ」


 カイは届かないと分かりつつも、通信に訴えかけていた。


 一方、コメディアンを撃破したエボ型は前進を再開していた。自分の作戦が成功したため自信がついたのだろう。その進行は迷いのないものだった。


「どうするの? このままだと中央タワーまで迫られるわよ」


 ナオは疑問を投げかけるが、今のカイに冴えたアイディアはない。しかしこのままエボ型を見送るのはもっと許しがたい事態だ。


「……相手の行動を変えさせるしかないですね。回避行動を優先しながら攻撃をして、相手の弾薬を減らすのです。向こうが神がかり的な直感がないなら、こちらが有利に進めます」


「なるほど、弾薬が減れば向こうはこちらを確実に仕留めに来る。良い作戦だ。やろう!」


 カイとナオはヨウコの提案に通信越しで肯定した。


 更にカイたちを援護してくれたのは地形の変化だ。エボ型は都市エリアからジャングル地帯に入り、こちらの隠れる場所を増やしていたのだ。


「合同練習の成果を活かすぞ! 俺は上空から攻める、右はナオ、左はヨウコに頼むぞ」


「了解!」


 再び通信の向こうで合意を得ると、3機は動き出した。

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