第37話

 カイのアグロコメットとマリアのアンダーテイルの最後の激突を前に、フィールド全体が揺れた。どうやら3度目の地形変化のようだ。


 2機が身構えていると、せりあがった山岳が消えて何もない平地に戻る。これは最初の状態と同じようだ。


 それぞれバランスを整えた両機は今、回避困難な真っ向勝負の場に降り立っていた。


「おあつらえ向きじゃないか。これならすぐ終わりそうだな」


「よく吠える。気づいていないようなら教えるが、不利なのはどちらか分かっているのか?」


「勝てばどっちでも同じだろ? ナオに言わせれば、負けていた方がよりエンターテインメントだというだろうがな」


 2人は軽い舌戦を交わした後、動き出した。


 先に仕掛けたのはマリアのアンダーテイルだ。ホイールから生み出される急加速から、地を這うような投球でボールを投じる。


 通常時のアグロコメットならこれを飛び越す選択もあったが、片手にボールを持って這いつくばってはそれも難しい。


 そこで一か八か、カイはアグロコメットに左手を伸ばさせた。


「このおおおおおお!」


 アグロコメットは何とアンダーテイルの投球したボールをそのまま掴む。これは本来なら無謀な行為だ。


 だがカイは相羽製作所の、スズ特製の手部を信じていた。これまでの性能を考えれば指だけでボールを捕らえられると確信していたのだ。


「何っ!?」


 アグロコメットは中指と人差し指をボールの衝撃で食いちぎられながらも、捕った。これはファインプレイだ。


「お返しだ!」


 カイはアグロコメットにマリアと同じアンダースローでボールを投じさせる。これもまたアンダーテイルと同じ低いボールだ。


 マリアは咄嗟にアンダーテイルのブーストを起動させるも、それは誤った対応だった。


「くっ! ブーストパックが不調か」


 アンダーテイルは跳躍しようとするも、背中に受けたボールのダメージによりブーストが働かない。


 おかげで無防備なアンダーテイルのホイールに、アグロコメットのストレートが炸裂した。


「もう1球!」


 アグロコメットは素早く右手にボールを持ち帰ると、続けてボールを投げる。それはホイールにボールを食らってよろめいたアンダーテイルには避けられない一撃だった。


 アンダーテイルは回避不能と判断すると、4本の腕を組んで防御に転じる。その選択は正しく、腕を軋ませながらもボールを前に弾いた。


 ところが、そのボールにアグロコメットはしっかりと反応していた。


「シュートだ!」


 アグロコメットは振り上げた足を前に転がってきたボールに合わせて振り下ろす。ジャストミートのボールはそうしてもう一度、アンダーテイルを襲った。


「舐めるな!」


 ただアグロコメットもやられる一方ではない。シュートに合わせてトスする形でボールを受け止める。それでは当然幾本かの指を失うも、マリアにとってその程度のダメージなど構わなかった。


 そんなアンダーテイルからの反撃、強烈なトスがアグロコメットの真正面に返ってくる。


 けれどもそれこそ、アグロコメットが欲しかったボールだった。


「絶対に、返す!」


 アグロコメットはまるで投球のように手の平を、アンダーテイルのトスに合わせて叩きつける。ちょうどそれはバレーボールのトスとアタックそのものだった。


 渾身のアタック。それはトスによって花開いた4本の腕の間をすり抜け、アンダーテイルの頭部カメラを襲ったのだ。


「悔しいが――」


 アンダーテイルの頭部カメラがアグロコメットのアタックで撃ち抜かれ、破砕した。


「私の負けか」


 頭部カメラを失ったアンダーテイルは4本の腕をばらばらにして、バランスを保てず1輪車を横倒しにした。


「マリア選手、KO判定! 勝者、カイ選手とナオ選手ペア!」


 審判ボットが高らかに告げるように、勝負は決着がついた。


「よしっ。残りは後1勝!」


 カイは投球の勢いでアグロコメットと同じように寝転がり、空を仰ぎながらガッツポーズを決めたのであった。

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