第33話

 準決勝の試合会場は、一見何もない平地のようなフィールドだった。


 ただし地面は緑色のタイル張りで碁盤上に区分けされ、無機質感を露(あら)わにしている。それは対面しているエクスボットの方がよっぽど色合い豊かなくらいだった。


「こんにちは、実況解説の吉澤です。続いてグループBの準決勝の解説を始めさせてもらいます」


 吉澤がカイとナオの成績やステータスを述べている最中、コンソールの中で通信が開かれた。


「事前確認はすんでいると思うけど、このステージはかなり特殊な造りよ。把握してるわよね?」


「心配するなよ。ここはただの平面のステージじゃないってことだろ」


 この緑色の何もないフィールドはただそれだけではない。タイル張りのような地面はピクセル型のキューブが埋め込まれており、それは地下から地上へ出現可能だ。


 つまりこのフィールドは、地下から立体的な構造物がせりあがるようになっているわけだ。


 時間経過により地形が変化する、それがこの第4ステージの売りとなっていた。


「ただ地形は完全なランダムで変化するわけじゃない。都市タイプ、山岳タイプ、巨大建造物タイプ、そして初期の平地タイプ。その4つのタイプにしか変化しないわ。冷静に地形を把握して動けば問題なしよ」


「その辺はVRシュミレーションにデータもあったから大丈夫だけどよ。それよりも気付いているか?」


「ん? 何か違う?」


「地形の事じゃない。ユウの機体だ」


 カイがナオに注意を促すと、どうやらその変化に気付いたようだ。


「ちょっと! これまでの試合と別のエクスボットじゃない!? いつ変えたのよ」


 ナオが不平を漏らす間にも、実況は続いていた。


「そしてこちらがマリア選手ユウ選手ペア。おっと、どうやらユウ選手は機体を変更しているようです。機体の変更は試合ごとに変更可能と大会ルールに記載されているためこれは問題ありません。しかし、準決勝に来て初めて使う機体。非公式試合にもデータはありません。どのように戦うのでしょうか」


 どうやら実況解説の吉澤も把握していない機体らしく、驚きを隠せないようだ。


 それにしてもここにきて試合にも出したこともない新機体、隠し玉にしては些か不安定な材料だ。


「さて、気を取り直して選手と機体紹介をしましょう。まずはマリア選手のステータスからです。

 攻撃力7。守備力7。回避力6。速度6。技量6。

 機体の性能により平均して高いステータスを保ちながらも、突出した点はアンダースロー投球という点のみ。しかしシーズンごとに機体を変更し、順応できる腕は確かです。今大会では春シーズンと同じ機体『アンダーテイル』。なんと珍しい一輪車型のエクスボットだ。しかも腕は4本。これは対するカイ選手ナオ選手は苦戦必須か!?」


 吉澤の言う通り、マリアが扱うエクスボット、アンダーテイルは不思議な格好をした機体だ。


 まず目立つのは巨大な脚となる一輪のホイール。太さは通常のエクスボットの3倍以上あり、頑丈そうだ。


 また注目すべきは4本の腕部だ。形状はマネキンの腕のようにシンプルであり、両肩にそれぞれ2本生えている。これなら防御にも攻撃にもマルチに対応可能だろう。


 頭部の方は阿修羅のような3面方向のカメラがあり、全体像は近代化された仏像ともいえなくはない様相だ。


 そして、次は問題のユウの機体だ。


「ユウ選手のステータスはこれまでの非公式大会から算出されたデータですが、機体は別のため参考程度でしょう。

 攻撃力8。守備力3。回避力7。速度7。技量7。

 ユウ選手はスピーディーかつアグレッシブなプレイング、その上エクスボットのサッカーとバレーであるエクスサッカーとエクスバレーのプロ選手でもあります。シューターボールへ転向した理由は定かではないですが、おそらくタッグを組んでいるマリア選手との関係があるようです」


 吉澤はそこまで言って、次を言いよどんだ。


「その、あのですね。ユウ選手のエクスボットについては私の方でも全くデータがありません。その機体名さえ謎、仮に『ノーネーム』と名称をしましょう。

 この機体については外見の概要しか分かりません。上半身はマリア選手のアンダーテイルとよく酷似しています。ただ下半身は別です。これは3本脚でしょうか。獣のような逆関節にも見える形状、しかし足先は人間のそれに酷似しております。どういう利点があるのでしょうか?」


 吉澤は疑問に思っているが、試合を間近で見たカイには分かった。


 まず足が3本あるのはエクスボットでボールを蹴る際に安定するためだろう。また足先が人間に似ているのも、よりボールを的確に捉えるためだ。


「キック力を強化するためのアッセンブリか。考えたな」


「形状からしてマリアちゃんのとこの製作所が秘密裏に組み立てたのでしょうね。それにしても土壇場で新機体なんて……カッコいいわね!!!」


「おいおい、感想はそれだけかよ」


 目を輝かせているナオの能天気な反応に、カイは軽く合いの手を入れた。


「初ステージ、初機体、初相手、いいじゃない。興奮する材料はあるだけあるのが私好みよ! こっちも驚きを欠かさないように行くわよ!!」


「芸人じゃないんだ。驚きよりも勝利重視だろ……。どうやら相手も相方も新鮮さに物足りなさはないようだな」


 カイとナオが感想を述べていると、試合の方も始まりそうだった。


「それではカイ選手ナオ選手ペア対マリア選手ユウ選手ペアの試合を始めます! いいですね」


 審判ボットはフィールドの中央に位置し、どちらからも否定の声が聞こえないのを確認してから告げた。


「では、試合開始!」

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