第32話

 第1試合の後、エクスボットの修繕も兼ねて3日の中休みを置いてからそれぞれ2試合、3試合とカイとナオのペアは勝利を重ねていった。


 一方、同じ優勝候補と並べられているヨウコとタクヤのペアも順調に勝ち進み、このままなら決勝で再び勝負になる予感があった。


 カイはヨウコとタクヤとの再戦を思い描き、その日はもうすでに準決勝を行う日程となっていた。


「知ってる? この有島フロートは元々軍事用の用地を確保するための建築物だったらしいわよ」


 準決勝試合開始前、ロッカーと長椅子だけの待合室の中でナオは小話を披露していた。


「今の有島フロートは軍事用の基地を下敷きにした形で建築されたの。だからこのフロートには地下があるワケ。もしかしたらとり残された作業員や軍人の霊が今でもそこで――」


「へー。そんな曰(いわ)くがあるのか?」


「いいえ、今私が考えたわ」


 カイが拍子抜けしたように肩を落とすと、備え付けのテレビから先に開始していたヨウコとタクヤの準決勝の結果がアナウンスされた。


「試合終了! ダブルKOによりヨウコ選手タクヤ選手ペアの勝利! 決勝に進出です!」


 テレビのディスプレイにはガッツポーズするエクスボットとその操縦者の顔が映されている。


 その顔に流れる汗や画面からでも感じる熱量からすると、かなりの接戦だったらしい。


「話に付き合ってたせいで大事なシーンを見逃したじゃないか。今日勝ったら相手はあの2人なんだぞ」


「それは勝ってから考えればいいわ。今は今、準決勝に集中しないと」


 ナオは飄々(ひょうひょう)とした顔で身振り手振りするも、その肩は僅かに震えていた。


「珍しいな。緊張しているのか?」


「……当り前じゃない。相手はあのマリアちゃんとユウちゃんよ。ユウちゃんはともかく、マリアちゃんは腕利きのプレイヤーよ」


 聞くところによると、大会開催3日前に出会ったあの小さな白衣の女性は、前年の賞金ランキング5位のプレイヤーらしい。


 見た目に寄らず、とはこのことだろう。あの小さな身体のどこにそんなパワーと技術が備わっているのかと考えると、驚きで目が丸くなる。


「マリアちゃんは新島製作所の開発部のトップだから、毎年試験用の機体で参加してくる。試験機と言っても、翌年販売されるような完成度の高い最新機体よ。機体の性能差は覚悟しないといけないわ」


「特に俺の機体は中古から改良しただけのエクスボットだからな。ハンデとしてはちょうどいいんじゃないか」


 カイがけらけらと乾いた笑いをすると、ナオが注意した。


「これはカイ君がいつも言っていることだけど、甘く見ないようにね。マリアちゃんはあの身体で製作所の仕事とプロプレイヤーとしての仕事を両立している強健な女性よ。試合のパフォーマンスだって私に敗けて劣らないくらいなんだから」


「その点は理解してるよ。それに相棒のユウも要注意だ。今までのプレイヤーに無い蹴り技によるシュートが中心のプレイングだ。慣れない相手だからって苦戦してるようじゃ、勝ち目はないぞ」


「そうね。ユウちゃんについてはデータも少ないわ。今大会はシュートによるプレイも僅かだし、参考にならない部分が多いわ。もしかしたら隠し玉にとっているのかもね」


「だとしたら、次の試合で実力を出してくる? そんな余裕があるなんて羨ましいな」


 カイたちが相手選手を分析していると、いよいよアナウンスがカイとナオを呼んだ。


「そろそろだな」


「ええ、これに勝って決勝に勢いをつけるわよ!」


 ナオは身体の震えも収まり、元気よく待合室から飛び出したのだった。

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