第28話

 休みを過ぎ数日の後、有島記念大会の開始まで残すは3日となった。


 多くの選手は現地入りし、それはカイたちも同じく有島フロートへ船で入港していた。


 連絡船から降りたカイたちを迎えたのはまず、中央にそびえたつ住居を含めた複合施設のタワーだった。


 中央のタワーは南向きのソーラーパネルとガラス張りの窓が表面を覆い、見る者を威圧するようにギラギラと輝いていた。


 連絡船に乗り合わせた者たちはタワーを含む人工物に圧倒され、しばし立ち止まる人がいるほどだった。


 カイたちがタワーを中心とした十字路の大通りを歩いていくと、試合会場が見えてきた。


 試合の会場は4つのフィールドに分かれており、形状はそれぞれ違う。1つ目は全く遮るもののない平面、2つ目は完全な森林地帯、3つ目は峡谷と山脈のような岩石地帯、4つ目はカイも見慣れた廃墟地帯だった。


 1つ目についてはどんな試合になるか全く見当がつかないが、カイは頭の中で試合展開をシュミレートして期待を盛り上げていた。


「あー! カイも来てたんだね!」


 カイが試合会場を一望できる、中央に向かう坂の上にいると後ろから声がした。


 何事かとカイが振り向く間もなく、自分の片手が握られた。


「合宿に参加してたのはやっぱりこの大会のためだったんだね。僕もいっぱい練習して強くなったんだよ!」


 声と手を握った正体は、プロライセンス試験の帰りで話をした尼崎ユウだった。


 たしかカイと同じ二腕二足のファイタータイプを使いながら、サッカースタイルでプロライセンス試験を合格した猛者(もさ)だ。


「お、おう。そりゃよかったな。ところでユウも参加するんだろ? 相方は誰なんだ?」


 カイが疑問を投げかけて周りを見た。


「見回さんでもここにいるだろうが」


 ふいにカイの視線の下から声がして、慌てて目線を下げる。そこには中学生くらいの白衣の少女が立っていた。


 白衣の少女は短い金髪を無理やりツインテールにしたような髪型で、とても背が低い。当然身体の起伏は少なく、身長のそれと一致していた。


 顔の方は白い肌にコバルトブルーの目をしていて、ハーフか外人だと予測した。


「……妹さん?」


「誰が妹だ。私は尼崎の師匠で、新島マリアだ。二度と間違えるな」


「師匠? ……年齢は?」


「聞くなとは言わんが失敬な奴だな。私は今年で22だ」


 どう見てもマリアはその10年分を引いた姿かたちなのだが、カイは相手の不興を被るのを避けるため、黙っていた。


「お前が西郡(にしごおり)カイだな。ユウから聞いている。プロライセンス試験で活躍したようだな」


「あの時は……運が良かったんだよ。俺もああなるとは思わなかったしな」


「それでも、だ。改造した中古パーツで挑もうなど、正気の沙汰ではないからな」


「? 何で知ってるんだ?」


 カイが不思議に思っていると、同じ船に乗っていたスズがこちらに来ていた。


「マリアさん! 中古品だなんて聞き捨てならないっす! 改造した時点でそのパーツは相羽製作所製っす。まるでリストア品みたいに言わないで欲しいっす!」


「事実じゃないか。改造したところで元は使い古しだ。新品を買え、新品を」


「うるさいっす! 新島製作所と違って自分のところはお客さんに高額な品を勧めないっす!」


 スズの最後の言い草については疑問に思うカイだが、新島製作所と聞いて興味が変わった。


「新島製作所? ってことはマリアも職人なのか?」


「職人兼プロプレイヤーだ。しかも新島製作所の開発部のトップ。自分で客引きしているスズと違って私は私で需要を生み出しているのだよ」


 マリアが小さな体でふんぞり返ると、少し大き目な身体のスズが唸った。


「客引きじゃないっす! スカウトっす!」


 どっちも似たような物だろとカイは思いつつ、そのままスズに話しかけた。


「スズ、船が着いたら先に届いているアグロコメットの最終調整をするんだろ? いつやるんだ?」


「あ、話に夢中で忘れてたっす。自分、最終調整はVRを使った綿密な奴をやりたいっす。だから今日から始めるっすよ」


「うへえ、どうせなら観光したかったんだがな」


「大丈夫っす。大会が終わったらその暇はいくらでもあるっすよ!」


 カイがそりゃそうだよな、とため息をつく。その後はマリアとユウと別れ、カイはスズと最終調整をするべく試合会場の傍のドックに向かって行った。

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