第26話
練習試合の敗戦の後、ナオは気分転換にと1日練習の休みを入れると発表した。
実のところ、その発表をしたナオはいつもの元気がなく、1度顔を出した後は自室に引きこもってしまった。
カイが外に行かないか、と誘っても、ナオは頑(かたく)なに無視を貫いているのであった。
結局1人で外出したカイが暇そうに散歩していると、いつのまにか1件のゲームセンターに辿り着いていた。
「今どきVR系ゲームがないなんてな」
カイが入ったゲームセンターはほとんど最新機の筐体がない、はっきり言えば古(いにしえ)の懐かしさがある場所だった。
あるのは胸ほどの高さ程度の、白い筐体ばかり。組み込まれているゲームの内容も格闘ゲームと縦横のシューティングゲームくらいだった。
お客もカイを含めても10人いるかどうか、とても閑散としており、独特の雰囲気を感じた。
「さて、何をするかな」
カイはゲームを吟味(ぎんみ)する。
ディスプレイに移されているプロモーションビデオは、カイの知らないものばかりで、ゲーム大会にもとうの昔に忘れ去られたような内容が多かった。
しかしその中にも、カイの知っている少し昔に流行(はや)った格闘ゲームが置かれていた。
カイは備え付きの椅子に座ると、筐体に硬貨を入れる。すると、ゲームの画面は切り替わり、オープニングからのキャラ選択ㇸと変わった。
キャラクターの選択は、カイがいつも使っていた金髪白服の騎士を選ぶ。このキャラクターは見た目の通り剣技を使うほか、長距離攻撃に氷魔法を唱えるタイプだった。
「久しぶりだからNPC対戦にするか」
カイはコンピューターが選んだランダムの敵と、何度か対戦する。
キャラクターの浮かせ技からの連続コンボ、特定の相性相手の対応方法、確定や重ねや固め技の確認。様々な操作をする中で昔の感覚を思い出していた。
そろそろオンライン対戦に切り替えてみるか、と思い始めていると、ゲームの画面に突然別のワードが飛び込んできた。
『チャレンジャー出現!』
それは格闘ゲームの筐体にはよくある、対面の筐体に座ったプレイヤーと勝負ができる機能だった。
カイが少し上から覗き込んでみると、そこには確かに誰かが座っていた。
「いいぜ、少し揉んでやるか」
カイが小声で呟くと、早速その挑戦を受けて戦闘画面に入った。
相手の操作キャラを確認すると、向こうは大柄に赤い身体をした投げ技中心タイプのキャラを選んでいた。
相手のキャラはカイのキャラとの相性は悪くない。投げキャラはその名の通り、敵キャラを掴んで投げる必要があるため、距離をとれば対処は難しくないのだ。
この場合、画面の端で『待ち』をする戦略もある。
『待ち』とは、相手が近づいて来るまで遠距離攻撃でちまちまと削り、近づいてきた時に対空技や返し技によって迎え撃ち、再び距離を離すやり方だ。
カイは対戦の開始共に、自分のキャラを画面端まで寄せて遠距離攻撃を放つ。
相手の投げキャラは遠距離攻撃を持たないので、ジャンプをして回避したりガードしながら近づいてきた。
そしてついに、相手のキャラはカイのキャラに飛び込む形で間合いへ入ってきたのだ。
「よしっ!」
カイは自分のキャラに対空技、剣を振り上げる攻撃をさせて相手のキャラを撃ち落とそうとする。
そのタイミングは完璧で、相手のキャラは空中でダメージを食らうはずだった。
「!? 空中キャンセルだと!」
しかし相手のキャラは空中で行動をキャンセルして後退し、カイのキャラの攻撃を避けた。
それはこの格闘ゲームのシステムだが、フレーム単位の判断力がなければ使えない高難易度のアクションであった。
カイのキャラは空中で攻撃をミスし、地上にたどり着くまで硬直時間が発生する。
相手のキャラはカイのキャラが落ちてくるのを待って、掴み技を炸裂させた。
「ひぇっ!?」
投げキャラは近づくのが困難な反面、1度近づけば投げ技による大ダメージが期待できる。
しかも相手の投げキャラは投げから投げに移行する、いわゆる即死コンボを実行してきたのだ。
そのままカイはなすすべもなくやられ、画面上にはKOのマークが残されていた。
「ぐ、ぐぐぐぐ」
カイは心底悔しがった。慣れないゲーム、それも苦手ジャンルとはいえ、こうも完璧に敗北するとは思わなかったからだ。
「無様だな。ルーキー」
カイが苛立ちで小刻みに筐体を叩いていると、対面の相手が隣に来ていた。
「アンタは……」
カイの隣にいたのは、あのプロライセンス試験の会場で現れた黒服の男、松葉セイヨウだった。
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