第24話
第1ラウンドを終え、15分の短い休憩の中でカイとナオはコンソールから出て汗を拭き、水分補給していた。
「ヨウコが強いのは当然として、案外タクヤもやるものね」
「だろ。アイツは性格とプレーが雑なだけでテクニックは巧みなんだ。今回もあの好守に何度も防がれたしな」
カイはタクヤの手ごわさを自分自身の自慢のように話した。
ナオはそれを、ジト目で納得いかないような顔をして眺めていた。
「それで? 後半はどう攻める?」
「うーん。そうね。逆にカイはどう思う?」
「俺か? 俺は、向こうの強みがヨウコの攻撃力とタクヤの守りにあると思う。なら、それをどうにかしないといけないな」
「うんうん。残念だけどヨウコとタクヤのコンビの連携は私たちよりもかみ合ってるわ。でも裏を返せば、2人を切り離せれば強みを半分以下にできるワケ。弱点はそこよ」
「ああ、ヨウコはどうか知らないけど、タクヤ1人なら俺もやりやすい。後半は相手を分断する方法を探らないとな」
「決まりね。後半こそ私の大活躍をみせてあげるわ!」
ナオは立ち上がって拳(こぶし)を突き上げ、決意を新たにした。
そして後半、4人はコンソールの中に入って準備を整えた。
「第2ラウンドは2ボールをタクヤ選手とヨウコ選手の所有で始めます。いいですね」
審判が両チームの同意を確認すると、高らかに宣言した。
「では、後半戦開始!」
開始と共に、カイとナオは南側に回り込んだ。その先導をしているのはナオだ。
「どうして南側なんだ?」
「相手はこっちの裏をかく可能性が高いわ。ならこっちも順当の逆を行ってやるって寸法よ。それにね」
ナオはおかしそうに笑った。
「私、久しぶりに遊園地へ行ってみたかったの」
「何だよその理由、子供じゃあるまいし」
「いいじゃない! たまには乙女らしさを振舞ってもバチは当たらないわよ。そういうカイ君だって女性と一緒に遊園地に行ってみたいでしょ!」
「あー、それは否定しないけどなあ……」
デート、と言ってもエクスボット越しではそんな気分になれるほどカイも器用ではない。そもそもこれが女性との交友と言える男性はまずいないだろう。
カイが気まずそうにしていると、何を勘違いしたのかナオは言葉を続けた。
「恥ずかしがることはないわ。カイ君は何に乗ってみたい? メリーゴーランド? ジェットコースター? それとも観覧車かしら」
「だからそんな気分にはなれないって――」
カイが誤解を解こうとしていると、視線の端で動く物体を見つけた。
それはホテルの最上階から下りてくるロウニンとコメディアンだ。どうやらもう捕捉されているらしい。
「ナオ! ジェットコースターに向かえ!」
「えっ? カイ君は絶叫系が好きなの?」
「違う! ヨウコとタクヤが来てるんだ!」
ナオも横から近づく機影に気付き、慌ててジェットコースターに向かう。
そこにはとぐろを巻いて這いまわる鉄のムカデのコースターがあり、5メートルあるエクスボットでも簡単に乗り移れそうな幅だった。
「先に行くわよ!」
ナオはカイの意図を察し、オクターをコースターの上へと着地させる。続いてカイもアグロコメットを操ってオクターの後ろからコースターへ飛び乗った。
コースターは緩急の激しい坂と、幾つかの縦と横のループで構成されており、人工のジャングルのようだ。
これなら多少遠目からのボールでも避けるのは難しくなさそうだ。
ただ、ヨウコとタクヤもカイたちの狙いを見抜いていた。
「おっと、向こうも乗り込んでくるみたいだ」
カイが言うように、ロウニンとコメディアンはそれぞれのボールを持ったまま、ためらいなくコースターへと踏み出してきた。
2人はコースターの上での綱渡りなど慣れていないはずなのに、その猛追はカイの想像以上だった。
「作戦通りに行くぞ。2手に別れるんだ」
「了解よ」
カイとナオはコースターからコースターに飛び移り、左右に別れる。
そして狙い通り、ヨウコはカイを、タクヤはナオを追い始めた。
カイのアグロコメットはヨウコのロウニンを振り切るために次々とコースターを跳び歩き、距離を離しにかかる。
ただしロウニンの脚も速く、距離は離れるどころか近づいている。これでは追いつかれるのも時間の問題だ。
「一か八かだ!」
カイは次のコースターに乗ると、今度は逆方向、つまり後ろへと跳んだ。
不意を突かれたヨウコはカイの突飛な行動に反応できず、そのまま真っすぐコースターを蹴ってしまった。
カイのアグロコメットとヨウコのロウニンが、互いに避けられず空中で接触した。
「カイ選手、軽度損傷ペナルティー5%!」
ペナルティーは少ないものの、アグロコメットとロウニンはぶつかった拍子に垂直に落ちていく。
幸いコースターの下は湖となっており、2機は水面に叩きつけられた。
「っ! やりすぎたか」
カイはアグロコメットを素早く立ち上がらせると、湖の深さはエクスボットの腰ほどの深さだと分かる。この程度なら、動くのに支障はない。
ただ水面ではうまく動けず、このままでは的だと判断して陸上に上がろうと努めた。
「何っ!?」
しかしロウニンは違う。水の抵抗があるにもかかわらず投球モーションに入り、アグロコメット目掛けてボールを投擲したのだ。
カイは咄嗟にアグロコメットの左手でガードに入り、ボールを弾いた。
「無茶しやがるな」
ボールを受け止めた左手は指の何本かが破壊されたが、水の抵抗のせいかシュートの威力は低く、全損にまでは至っていない。
カイは投げられたボールを回収し、やっとのことで陸上に上がった。
「チャンス!」
カイは陸に上がった途端、踵(きびす)を返して湖を向く。そこにはまだ水を掻き分けて進むロウニンの姿があった。
カイはアグロコメットに投げの体勢へ移行させ、ボールをオーバースローで運び、遠心力を最大に活かす投げ方をした。
変化球という小細工をしなかったのは、ロウニンがよけきれないと判断したからだ。その狙いは見事当たり、身動きが大して取れないロウニンは自分でボールを受け止めるしかなかった。
ロウニンは左ひじから先のない腕を伸ばし、ボールをガードする。おそらくカイでも同じ対応をしただろう。
おかげでロウニンは左肩から腕を破壊されるも、胴体は無事にガードできた。
「作戦ミスのようだな。水中で投げなければこんなピンチにならなかっただろうに」
「いいえ、私はこの隙が欲しかったのです」
「!? 何!」
アグロコメットを覆う形で、大きな機体の影が下りてくる。
それは、コメディアンだ。
「必殺! 両腕パイルボール!」
タクヤはカイとの初戦では失敗した必殺技を、アグロコメットの背中に炸裂させようとする。
ロウニンがわざと水中からボールを投げたのも、この場所でこの瞬間を演出するためだったのだ。
「避けられるかっ!?」
アグロコメットはコメディアンのパイルボールを受ける寸前で機体を捻る。
だが、無情にも機体は悲鳴を上げて引き裂かれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます