第14話
プロライセンス試験、第1試合会場は騒然としていた。
本来ならばエクスボットの機体を傷つけるのも叶わない、軽く破裂しやすい練習ボールを使い。エクスボットの頭部カメラを跡形もなく破壊しまったからだ。
「あの、試合終了ですか?」
あまりにも驚いたのか、審判が操作する一眼レンズの小型ボットは頭のなくなったエクスボットを呆然と見ていた。
「あ、ああ。そうだ」
カイに敬語で話しかけられ、審判はようやく我に返ったようだ。
「プロライセンス試験第1試合、カイ選手のKO勝ち!」
審判がそう告げると、コンソールの外で観戦していた受験生たちが、やにわにワッと歓声を上げた。
試合が終わりカイがコンソールの外に出ると、その周りを受験生たちが囲んだ。
「凄いなお前! いったいどんな技を使ったんだ!?」
「弾が空中でブレたように見えたぞ! 変化球なのか! いったいどうやって投げたんだ!」
「ずるしてないよな? あんなボールの食らい方みたこともないぞ」
カイは受験生たちに詰め寄られながらも考える。
何故あの無回転ボールがあそこまで威力が大きかったかと言えば、おそらく無回転による副作用が原因だ。
カイは空中での変化を期待して投げたつもりだったが、どうやら野球のストレートの重い球と同じく、回転数の少ないカイの投球は球質を重くしたようなのだ。
他にも意表を突かれた偶然や、入射角度、インパクトの瞬間の設置面積など、要素はあるかもしれない。
それでもカイのボールが練習ボールでエクスボットの頭部カメラを跳ね飛ばしたのはまぎれもない事実だった。
「間もなく次の試合が行われます! 試合がまだの方は集まらないでください! 集まらないで!」
あまりの集団に慌てた試験官は、皆を注意しながら人だかりを霧散させる。
そうしてやっと、カイは人ごみから解放された。
「あの、いいですか?」
「なんですか? カイさん」
カイはボールが首をはねた時から気になっていた話題を、近くの試験官に振った。
「相手のエクスボットを必要以上に破壊した場合、損害賠償とか請求されませんよね?」
「えっ? ハハハッ、そんなまさか」
カイのそんな問いに、試験官は苦笑した。
「それはありませんよ。試験での破損は全てJExSUが保証するようになっています。そこは安心してください」
「よ、よかった」
カイは試験官の応えに安心して、その場を離れた。
そして次々に試験会場で模擬戦が行われ、カイも幾つかの試験の様子を大画面のテレビ越しに見ていた。
「おう! どうやらお前の試合はすごかったらしいな!」
そうして椅子に座っていると、遠慮なしに隣に座ったのはタクヤだった。
その顔は朗(ほが)らかで、試験の悩みなどつい感じさせない様子だった。
「その様子だとそっちの試合も上手くいったようだな」
「当たり前に決まってるだろ。圧勝よ、圧勝。この俺が後れを取るわけねえって」
タクヤは堂々とそう言い、ガッツポーズを作った。
「それで、他の試合はどうだ? 俺たちのライバルになるような選手はいたか?」
カイとタクヤは同時に大映しのテレビを見る。
画面は4等分に表示され、そろぞれの試合会場の様子が伺える設定になっていた。
どの試合も堅実な試合運びが多く、よく言えば手堅い、悪く言えば見ごたえのない試合ばかりだった。
「見るべきものはねえな。エクススポーツは見世物でもあるんだ。あんなちんけな試合じゃ、客は満足しねえぞ」
「スポンサー的にはそうだろうな。――いや、面白い選手もいるぞ」
カイはそう言ってテレビ画面の左上を指した。
「おお、こいつはおもしれえ」
左上の画面では機敏な動きをする風変わりなプレイングをした受験生の機体が映っていた。
機体そのものはカイのような二腕二足歩行であり、普通だ。
しかし目を引くのはボールの扱いの方だった。
「まさかドリブルをするなんてな」
その受験生はボールを手にはもたず、蹴っている。まさにサッカーの試合だとばかりにゴールポストである相手のエクスボットを狙い、何度も正確で強力なシュートをしているのだ。
「あれはエクスサッカー出身の受験生だな。上手くボール運びをするもんだぜ」
「だけど合理的だ。人体と同じでエクスボットも腕より機体を支える足の方が強いからな」
「ああ、だが機体を支える足を片足失うワケだから、難易度は段違いじゃねえか。あれはシューターボールに適しているのか?」
「さあな。けど持ち味を活かすのは悪くないだろ」
エクスサッカー出身らしきその受験生は終始相手を圧倒し、見事勝利を飾っていた。
「ライバル出現かもしれねえな」
「どうだろう。そればかりは相手にしてみないと分からないな」
その後、カイとタクヤは中継されている試合について語り合い。実際に試合で相手をする場合をシュミレートしたり、伸びしろについて言葉を交わしていた。
プロゲーマー時代でもカイは同じ話題を共有する相手はネット上くらいにしかなかったので、それはとても貴重な体験だった。
「全模擬試合を終了しました。受験生の皆さまおつかれさまでした」
テレビの試合の様子が全て終わってしばらくすると、会場のアナウンスがそう告げた。
「それでは合格者の発表をいたします。少々お待ちください」
どうやら待たされたのは試合の総合点を計算していたかららしい。それにしても手際のよい話だ。
「通ってくれ通ってくれ通ってくれ通ってくれ……」
カイが余裕そうにしているのとは打って変わって、タクヤは懺悔するように願いを捧げていた。
そしてついに、合格者の発表が始まった。
「合格者は会場に残っていてください。1人目は西郡(にしごおり)カイさん」
「うしっ」
カイは合格を確信していたが、それでも嬉しさて顔をほころばせる。
続いて2人目、3人目名前が呼ばれ、4人目の名前が呼ばれた。
「4人目は安生(あんじょう)タクヤさん」
「よっしゃああああああ!」
タクヤは名前を呼ばれた途端オーバーなアクションをして、周りの受験生たちを驚かせた。
そのまま5人目の名前も読まれ、そこで合格者は打ち止めとなった。
「50人中5人か。全部で6つの支部があるから、全国で30人くらいかな」
「いや、俺が前に受けた時は2人だったから、ちげえと思うぜ。何にしても合格して何よりだな」
「ああ、お互いにな」
合格者5人は会場の別室に移動させられ、そこで簡単な面接を受けた。
だからと言って面接で落ちた受験生はおらず。選ばれた5人は最後に講習を受けるべく、大講堂に集まっていた。
「講習なんてめんどくせえな。バックレちまおうぜ」
「まだプロライセンス資格を受け取っていないのに余裕だな」
「言っただろ。俺は一度プロライセンスを受け取ってるんだ。今更プロの心構えを教えられても困るぜ」
タクヤがそうボヤいていると、大講堂に1人の男性が入ってきた。
「おっと、噂をすれば来てるじゃねえか」
タクヤはわざとらしく口を塞ぐと、その場の5人と共に、壇上へと上がった男性を注視した。
その男性は黒衣を纏う、ロングヘア―の男だった。顔はゴツゴツと強面(こわもて)で、黙っていても威圧感があった。
「さて、新人プロの諸君」
黒衣の男性はそう前置きをして、こう言い放った。
「シューターボールなどというクソのようなスポーツに人生を賭ける必要はない。皆辞退したまえ」
黒衣の男性は朝食の日課のような自然さで、そう勧めてきたのであった。
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