第12話
一般社団法人日本エクススポーツ連合、略してJExSU。日本にはその支部が日本に6つあった。
北海道、長野、栃木、三重、島根、佐賀だ。
大阪の端に住んでいる西郡(にしごおり)カイは、一番近い三重の支部にてプロライセンス試験を受ける話になった。
「結構山奥なんだな」
カイは駅から出る送迎バスに他の受験者と共に詰め込まれた。
そのバスの中は和気あいあいといった様子はなく、皆緊張した面持ちをしていた。
カイは特に誰かと話しもせず、外の景色を眺めている。すると、送迎バスはどんどん田舎から森へ、そして山の中へと進んで行ったのだ。
何故支部が人の多い都市ではなく山にあるかと言えば、それはエクススポーツと数十年前に弾けたバブルに関係していた。
まずエクススポーツは約5メートルというその機体の大きさにより、広いフィールドが必要だった。それは都市などの狭い場所では確保できず、別の場所が必要となっていた。
そこでバブルの崩壊だ。日本にとって二度目の不動産バブルは凄まじく、時代錯誤な山奥の乱開発まで行われて、辺境の住宅街や楽園を大量に作り出していったのだ。
しかしバブルが途切れると、その場所は廃墟となってしまった。そんな誰も必要としない広い場所はエクススポーツにとって有用だった。
結果、地価の安さと広い土地によりJExSUの支部と実技試験の場所は山奥となったのだ。
これは他の公式や非公式の試合会場にも言える話だった。
カイは覚えたてのエクススポーツの知識を思い出しながら、バスが支部の前に止まるまで流れゆく緑地を眺めていた。
バスが支部の前に止まり、降りると、次に輸送された自分のエクスボットの到着確認を勧められた。
幸い3日前に壊れたカイのエクスボットであるアグロコメットは、新品の状態で到着していた。
「スズには迷惑かけたな」
確認の後、カイが支部に入ると、そこはガラス張りの大きなフロントが受験生たちを迎え入れてくれた。
その場所で、集められた受験生たちはこれからの日程について説明された。
「まず午前中に筆記試験を行います。時間は50分、マークテストとなっています。午後には2つの実技試験を行います。1つは基本動作の試験、もう1つは対戦形式の評価を行い採点します。
この3つの試験の総合点がある程度超え、簡単な面接を終えると、晴れてプロライセンスを取得できます。皆さま、頑張ってください」
その説明を受けた後、集まった50人の受験生たちは筆記試験に挑んだ。
筆記試験はカイにとってそう難しいものではなかった。
カイはVRゲームで思いつく基本的な知識の他、ナオから教わった要点がほとんど出たテストの内容であり、それほど苦も無く書き終えたのだ。
筆記試験後、会場を出る際にタクヤを発見した。
「試験はどうだった、タク……」
カイはそう気さくに話しかけようとしたが、タクヤの顔色で全てを察した。
「……カイよお。どうしてこの世には筆記試験なんてものが存在するんだ?」
「……相対的に人を評価するため、とだけは言っておくよ」
タクヤはこの世の終わりのような顔でどんよりとした視線をカイに送った。
どうやら筆記関連はよほど苦手ならしい。
カイはタクヤを励ますつもりで話題を変えた。
「まだ3つの内の1つ。残りの実技2つでいい成績を残せばまだまだ勝負は分からないだろ」
「うううっ。そうだよな。残りの試験に全てを賭けるしかねえよな」
元気になったのか、吹っ切れたのかよくわからないタクヤは気を取り直して次の試験会場に移動した。
それに続いたカイは、次の実技試験でVRコンソールを使用した。
「基本動作の確認テストは公平を期するためにVRゲームを使います。まずは的当てによるコントロールと威力の測定、次に短距離と長距離のスピード試験、回避能力の判定、キャッチングとガード率の測定、以上となります」
カイは順調に試験をこなした。どれも手ごたえとしてはそこそこで、筆記試験の感触的には悪くない範囲だろう。
そうして問題の実技試験、対戦形式の試合となった。
「最後の試験となります。これよりランダムの抽選により発表された対戦相手と対戦順が告知されます。呼ばれた人は素早く移動してください」
用意されている実技試験のフィールドは4つ。その内の最初の試合が発表された。
「第1試合、飯伏銀対西郡カイ!」
「お、おう」
まさか第1試合が自分とは思わず、カイはつい声が漏れる。
カイは他の受験生たちの注目の中、人ごみを掻き分けて試合会場へと向かった。
「おい、飯伏銀ってあの飯伏銀か」
「プロ試験の大ベテランじゃないか。通算受験数5回。今度のプロライセンスは合格確実って話だろ」
「カイって新米も嫌な相手に当たったったもんだな」
話を盗み聞きしたカイは、受験のベテランは強いのか弱いのか分からず、僅かに困惑した。
そんな考えをしながらもカイは試合会場のコンソールへと辿り着いた。
「これより飯伏銀対西郡カイの対戦形式による試験を始めます。この試合は勝敗ではなく、試合内容が合否に関わります。両者健闘を期待しています」
審判の試験管は特にカイの顔を見ながら、そう告げた。
「よろしく頼むぞお。お互い杭の内容にやろうお」
野太い声、渋い顔、おそらく実際の歳よりも上に見られやすいであろう男性はカイとの握手を求めた。
「こちらこそ、精一杯やっていこう」
カイは前向きな言葉と共に銀のゴツゴツとした手を握った。
「では始めます。試合は1ラウンド30分のみ。温存は考えず全力を出し切ってください!」
カイはその言葉に押され、コンソールの中に入り準備を整えた。
実技試験最終の対戦形式では、受験生の持ち味を活かすために自前のエクスボットを用いる。
カイは3日前に使ったアグロコメットを、銀はカイのアグロコメットと同じの二腕二脚のファイタータイプを使用していた。
銀のエクスボットの登録名は「マイペース」。名前も見た目もシンプルで、無駄を削り取った真っ白な、悪く言えば貧相な機体だった。
「対戦において特別なルールがあります。それは必要以上の破壊を防ぐため、公式ボールとは別の練習ボールを使います。
これは公式ボールよりも軽く、破裂しやすいボールです。それにより機体へのダメージはほとんどなく、衝撃から増幅された損傷率によってダメージ計算を行います。
機体が破壊される可能性は皆無なので安心して全力を尽くしてください」
カイは練習ボールという名前は初耳だったが、野球の硬式と軟式のようなものだろうと軽く流した。
「両者位置につきましたね」
カイのアグロコメット、それに銀のマイペースはお互い対角線上に向かい合い、試合のホイッスルを待った。
「では、試合開始!」
ボールはアグロコメットとマイペースのちょうど真ん中、それを奪い合うために両者は走り出した。
「さあ、ここが正念場だ」
カイはどんな試合になるか想像し、興奮に身震いしながら両手をギュッと握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます