第20話 告白された記憶がない
クラス会での出来事で中学生時代に憧れの存在であった虚像の人物は消えクズだけが残った。
他人から信用を奪う行為をした報いなのだから、いつか自分に返ってくるのは自然の摂理だ。
まだまだクズには油断も出来ないし倍返しには程遠いが、いま考えるべき最優先事項は―――
……いまだ正体不明の小悪魔である。
もう一度頭の中の記憶を整理してみる事にしよう。
彼女の名前は【
僕と同じ学校に通う1年生で、いつも周りにまで聞こえるような大きな声で僕を陥れるかのように話すウザイ後輩だ。
僕の記憶の中では新入生として入学してきた彼女は、登校する僕の姿を見るなり多くの生徒がいるにもかかわらず校門で「大好きです!わたしと付き合ってください!」と告白してきたのだ。
その当時は付き合っていた幼馴染の千花と毎日一緒に登校していたので、その後が修羅場になった記憶は今でも忘れない。もともと記憶は忘れない体質だけど一応言ってみた。
僕が記憶喪失のフリをしていてひょんなことから、彼女とお出掛け(向こうはデートと言いふらしていたけど)する事になり向かった先は僕が初めてサイン会を行ったショッピングモールだった。
そこで初めて出会った可能性が高いので記憶を全て確認してみたものの、小悪魔らしき人物は記憶に残ってはいなかった。
しかし彼女は僕と『運命的な出会いをした場所』と言っていた。
その時の小悪魔の表情を思い出してみても、真剣そのもので嘘をついているようには見えなかった。
記憶喪失になった事件からの彼女の行動を観察してみる。
僕の記憶と千花の話を擦り合わせると、僕が突き落とされた時に彼女も現場にいた。
クズと言い争いをした記憶が一瞬だけ残っているので、どちらか一方が望まない不測の事態が起きたのだろう。
問題はここからだ。
事故が起きてからその場に残っていたのは、クズと千花だけ。
クズは千花を嵌める為に残っているのは分かるけど、大好きだと告白してきた女の子がそのまま僕を放置してその場を立ち去るだろうか?
実行犯または共犯者……もしくは……
小悪魔は退院してから学校に通えるようになった後は、いつもべったりと僕にひっついていた。
物理的にひっついてきたものだから、僕は理性を保つのが大変だったけどそれ以上にとにかくウザイ記憶が勝っている。色気<ウザイの方程式が成り立つ美少女は滅多にいないだろう。
あそこまでべったりされていると監視されているのではとの疑念を持つのは必然だ。
ただし……一緒にテスト勉強に取り組む姿勢や27位と好結果を残した彼女の頑張りは、決して義務的な行動ではないしむしろ教えてくれる僕の為に頑張ったことを肌で感じることが出来た。
SNSによるスキャンダル疑惑の際は、わざわざ身バレしそうなミスを犯したけど全面的に僕を擁護するようなコメントを頼んでもいないのに入れて陰で助けてくれた。
お礼を言った僕に対して小悪魔は照れくさそうに、でも嬉しそうな笑顔を見せてくれた記憶が忘れられない。
最後に事故現場でのあの呟き。
「わたしなりの償いですから」
その言葉を聞いた時から頭の中では何度も何度もその言葉が繰り返されている。
クズの事もあり自分を見返していた時に聞いたその言葉。
記憶喪失のフリで逃げている僕も人として道を外れた行動をしているのは重々承知だけど、僕はクズのようにはなりたくない。
小悪魔を追い込む事になるのか救う事になるのかは僕にだって分からない。
だけど僕を大好きだって告白してきた女の子が困っているのなら、たとえ辛い結果が待ち受けていようとも僕は手を差し伸べるつもりだ。
彼女と正面から向き合う覚悟を決めた僕は、小悪魔のいる1年生の教室へゆっくりと歩きだしていた。
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