第21話 お姉さんに聞かされて?~あやまらないわ~
あぁ・・もう・・。
どうすれば。
自分の足元には、お守りの束と小銭が落ちている。
だめだ・・自分でもわかる。
昨夜の母の言葉が、ずっと頭をぐるぐるしている。
そのせいで、商品を落とすし、小銭も落とす。
・・いやっ・・違う。
これは、自分のせいなんだ。自分は、今まで避けて通ってきたにすぎない。
逃げている。
そう、自分は逃げているだけなんだ・・・。
きっと・・これは、いい機会。もしかしたら、高校生の時より1歩前に出られるかもしれない。
・・・いやっ・・無理だ。どれだけ、ポジティブに考えようとしても・・無理なものは無理だ。
・・・・。
・・・・・。
「・・・ちゃん?・・依天ちゃ・・・?どう・・・の?」
はっ!参拝者!
「はっ!申し訳ありません。こんにちは。お守りでしょうか・・・あ?」
「ふふふっ・・本当に巫女さんだったのね。依天ちゃん。お久しぶり。」
目の前には、タータンチェックのワンピ―スに上品な香りの香水それに、柔らかい微笑みの静華さんが立っていた。
「静華さん・・・お久しぶりです。・・えっと・・・なぜ、ここに?」
「もぉ!ゆう君達に聞いたの!依天ちゃんたら、あれ以来うちのライブハウスに遊びに来てくれないし寂しかったわ。」
「すみません。えっと・・やっぱり自分には、気後れする場所と言いますか・・。」
「ふふっ!いいのよ。ちょっと、意地悪したかっただけだもの。それより、お顔の色がすごく悪いわ・・どうしたの?」
「・・・それが・・あの・・。同窓会に参加することになってしまいまして・・。」
「あら!素敵じゃない?同窓会なんて・・ふふふっ前に参加したのはいつだったかしら・・・。もしかして、依天ちゃんは、参加したくないのかしら?もし、よければお姉さんに聞かされてくれないかしら?」
「はい。」
静華さんに、今までの経緯を話した。
「そう・・・お母さまが勝手に返信したのね・・・。それは・・とても嫌だったわね。」
・・・静華さんと話していると自分が小さい子供に戻ったように思える。
自分の話を聞いてくれている・・・そういう存在が・・こんなにも暖かな色をしていたなんて知らなかった。
「多分・・そうです。自分は・・・嫌だったのかも知れません。行きたくない・・・ここで仕事をしている時も、塾で勉強している時もこんなに・・お腹に圧力を感じた事はないです。だから・・・やっぱり・・同窓会に行くのは嫌なんだと・・。」
「そうね。」
「で・・・も・・。高校生の時よりも・・ずっと・・大人になったのに・・いつまでも逃げていては・・ダメですよね・・。」
そう・・きっと・・いつまでもこのままで・・・。
分かっている・・わかっているけれども・・。
「そうかしら?大人になったら、きちんとしないといけないって誰が決めたのかしら?」
「えっ・・でも・・ちゃんとした大学に行って、ちゃんとした企業に入社して・・自分の場合は医学部へ行って、医者にならないと・・・ちゃんとしないと・・。」
「そう?依天ちゃんは、ちゃんとした大学とかちゃんとした企業って何だと思う?」
・・・・。
ちゃんとした大学?
ちゃんとした企業?
・・・・・・考えたこともなかった。
自分は、母とお爺様が決めた道を歩かなきゃ行けない。
そうでないと・・・ダメ・・・なはず。
「わかりません。でも、それが普通ではないのでしょうか?」
「そうね。一般的ねその道が・・・でもね、依天ちゃん普通の道を歩んでいない事がダメな事じゃないのよ?どんなに良い大学に入っても、どんなに良い企業に入社してもその道が正しいとは限らないわ。私はね、とても良い企業に新卒で入ったの・・でもね、ダメだった。頑張ったわ。私なりに・・でも、合わなかったの。だから、辞めたわ。後悔はしてないわ。ねぇ・・依天ちゃん大人ってちゃんとしていないものよ。もちろん、普通にちゃんとしている人もいるわ。でも、そうでない人も沢山いるわ。皆が正しくて、正解なの。答えは、1つじゃないのよ?」
静華さんは、いつの間にか、自分と目線を合わせてくれていた。
「依天ちゃんは、私が知っている中で1番の頑張り屋さんよ。」
「?・・頑張り・・やさん?」
「そう、頑張り屋さん。だって、行った事のない場所に1人で挑んだのよ?」
「・・それは、林君達が・・・招待してくれたので・・。」
「そうね。それは、きっかけね。でも、本当に行ったのは依天ちゃん自身でしょ?断ることも出来たわ。だけど、貴女は来てくれた。きっと、怖かったと思うわ。ゆう君達は、舞台に立っていて離れていたし・・帰りたかったと思う。でも、最後まで聞いてくれた。そのことが、何よりもすごい事よ?私は、貴女のお友達になれてとても、嬉しいわ。」
「そうでしょうか・・・。自分は・・ただ・・・神楽を成功させたくて・・・トヨさんと商店街の人達に・・・喜んで欲しくて・・・それだけなんです・・それだけ。」
「それで充分じゃない!誰かの為に頑張れるそれだけですごい事なのよ?」
・・・・。
分からない・・ただ、夢中で・・・。
あの時は、林君達に仲直りして欲しくて・・・。
本当に・・夢中で・・・。
「・・・・・そう。わかったわ。依天ちゃんに必要なのは自覚と自信ね。自覚は、私にはどうにもしてあげられないけれども・・・自信は力になれるわ。」
「自信ですか?・・・あっ・・この間の塾のテストが良かったです。」
「・・・・それも、自信ね。少し違う自信をつける必要があるの・・・ちょっと待っていてちょうだい!お姉さんが力を貸してあげるわ。」
そういって、静華さんは神社の奥に進んでいった。
・・・自信。
自信なんて・・・自分が持っていても意味があるのか・・ないのか。
静華さんは、何をするつもりなんだろうか・・。
自分は・・・・・どうすればいいのか。
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