第20話 同窓会の招待状~あやまらないわ~

塾に通うようになってから、巫女の仕事を遣り繰りするのが大変になった。

その反面少し良い事もある。

今まで、1日中使えた時間が、使えなくなった事、毎日行く訳じゃないけど、やっぱり時間は取られる。

それに対して、塾が、駅前にあることで、便利になった。今までは、神社から降りて結構遠くまで買いに行っていた。

今日は、塾終わりにお茶葉と掃除に使う洗剤。それと、靴ベラと中敷きとトップコート。

後半は、市川さんのお使い。

市川さんは、爪が弱い?らしく良く割れるらしい。

初めは、トップコートが、服のコートの種類の1つかと思ってびっくりしたけれども爪に塗るものだと知り恥ずかしくなった。


塾では、新しく知り合いが出来た。

小倉君が自分に会いに来た日以来、女の子のグループに注目されるようになって、注目されると共に話かけられるようにもなった。

彼女達曰く小倉君は、イケメンなんだそうだ。

林君には、言えない・・もしかしたらもう気が付いているかも知れないけれど。

「ねぇ~いーちゃん!これは?これは、やってないの?」

胸まで伸びている髪を指で弄びながら、スマホの画面を操作し、自分に話しかけてくれるのは、英語のクラスで一緒のルミちゃんだ。

ルミちゃんこと、長谷川るみは、高校2年生のお洒落な子。

彼女が、自分に1番に話しかけてくれた子で、実は林君のファンらしい。

高校生の間では、林君達のバンドは、有名らしくて、サインが欲しいと言われた事が始まりだった。(まだ、貰えてない。)

因みに、いーちゃんとは、自分のあだ名だ・・ちょっと、恥ずかしいな。


「これは?・・・踊りですか?」

「そうだけどぉー。えっと、SNSのコミュニケーションツールだよ!いーちゃんのバイトしてる神社暇なんでしょ?こういうので、紹介してみたら?」

「・・・使い方が・・。」

知ってはいる。

林君達が使っているし、市川さんも情報収集に有用だって言っていたから知ってはいる。

海外の人とも繋がれるし、勉強にもなる。わかってはいる。

けれども、自分で使うとても気後れする。


「んじゃあぁ!いーちゃんこっち見て。」

カシャ!

「!びっくりした・・。えっと・・写真?」

「そう!これね。こうして・・こうすれば・・・ヤバーい!どう?かわいいでしょ?」

「・・・・・。」

ルミちゃんのスマホには、自分とルミちゃんの自撮りが写っている。

画面に写っている自分達は、ウサギ耳と髭が書いてあって、目の大きさが・・・すごい事になっている。

「盛れるっしょ!」

「漏れる・・・えっと・・すごいね。こここれを・・どうするの?」

「えっと、これで良し!ね!」

加工された写真は、ルミちゃんのページに投稿されていた。

写真の下に、(勉強ちゅうぅ~♡)と書いてある。

「・・・これで、投稿出来たの?早いね・・・えっと、ちょっと・・いやっ・・大分恥ずかしいのだけれども?」

「えぇ~かわいいくない?」

「いやっルミちゃんは、可愛いけれども・・・自分は、その・・ウサギの耳をつけても良い年齢じゃないかな・・と思いまして・・。」

「大丈夫!いーちゃんって、年齢不詳だから!あっ!来た!ダーリン来たからまたね!」

「えっ・・年齢不詳?・・えっはい。またね。」


カバンを持って、飛び跳ねるように帰って行くルミちゃんの後ろ姿は、上機嫌だ。

塾の前に、大きめのワゴ車が止まっている。ルミちゃんは、躊躇いもなく乗り込んでいった。

ダーリン・・・多分彼氏が迎えに来たのだろうか?

明るくて、いい意味で相手を巻き込む事に長けているルミちゃんに、終始巻き込まれた。

初めは、塾に向かう道が重く暗い色だったのに、ルミちゃんや林君達のお陰で嫌な色じゃなくなったことは、確かだ。

あれっ・・・ルミちゃん・・彼氏がいるのに・・林君のファンなの?

・・・今の高校生は、自分の時よりもずっと、先に進んでいる・・多分。


最近、自分よりも若い子と、知り合いになることが多くなって、世界が新しくなっている気がする。

別に、突然変わっていく訳じゃない。

だけれども、ちょっとずつ、少しずつ、自分の知らない物に触れることで、色んな色が組み合わさって混ざっていくような、水彩画みたい・・・。

この色は、嫌じゃない。


右手に、駅前で買ったお使いと、コンビニのお弁当。

ずっと、御婆さんの晩御飯を食べさせて頂いたから、コンビニ弁当なんてすごく久しぶりだ。

久しぶり・・まるで神社でアルバイトする前みたい・・・。

多分、同じ帰り道を歩いていたはずなのに、空に浮かんでいる月がはっきりと見るし、星も綺麗。

・・・。

・・・・・段々、自宅に近づいていく。

・・・あぁ・・これは、変わらない。何故だろうか、毎日帰っているはずの家なのに、どんどんお腹辺りに鉛色が積もっていく。

なんで、温めなきゃいけないお弁当を買ってしまったのだろうか。

自分の迂闊さは、変わらない。

あぁ・・まだ、リビングに灯りが付いている、ということは、母も父も居るはず。

今日の塾の内容を復習して、林君達に教えなきゃいけないのに・・。

・・覚悟を決めて、家に入る。できるだけ、音をたてないように・・。

そっと・・自分の家なのに・・。

ガチャッ!

「あら?お帰りなさい依天ちゃん。今日は、いつもより遅かったのね?お父さんも帰ってきてるわ。そうだ、お父さんと一緒に晩御飯食べましょ?」

ニッコリ笑う、母がリビングの扉を開ける。

「・・えっと・・お弁当買ってきたから・・要らない。」

「・・そう。残念ね?いつもは、お仕事先で食べて帰ってくるから今日くらいは、一緒に食べれると思ったのに。」

母は、伏目がちにこちらを見てくる。

「ごめんなさい。」

それ以外の言葉が、浮かばない。

「まぁ!いいわ。これ、温めましょうね。」

コンビニ袋をひったくられた。

・・・やっぱり、次からはサンドイッチにしよう。


何故だか、上機嫌でリビングに入っていく母に着いて部屋に入る。

ここに入るのもすごく久しぶりな気がしてならない。

リビングには、父が居て天ぷらを食べていた。

お腹が減っているせいか・・とても美味しそう・・天ぷらの香りはとても魅力的だけれども、今日は、電子レンジで回っているお弁当を食べなきゃいけないし、一緒には・・・。

電子レンジの中でクルクル回っているお弁当を待つ時間が、こんなに長い何て・・・。

遅い・・ここに居るのは、息が詰まるのに・・遅い。

「そうだわ!依天ちゃん!今日ね、高校の同窓会事務局からお手紙が来てたの。中身は、もちろん同窓会のお知らせよ。依天ちゃんいつも、参加しないから、お母さんが代わりに出しておいたわ。」

「えっ・・出したの?・・そう、ありがとう。」

自分の卒業した学校は、私立でOBの力が強い。かくいう、お爺様とお父さんも卒業生で理事とかなんとか・・・。

自分は、いつも同窓会には出ない・・。高校には、いい思い出はないし、友達もいない。

それに、今はこんな事に時間は、裂けない。

「ええ。参加に○を付けておいたわ。」

・・・。

・・・・・・?

「お・・・かあさん。○って?」

「○?同窓会に参加する事に○して、出しておいたわ。たまには、息抜きも必要よね?」

「えっ・・参加・・参加するの?・・同窓会に?・・・自分が?えっ?」

母の言葉を飲み込めずに、逆流してくる。

「お弁当出来たわ。そうだ、これだけだと体に悪いからお味噌汁も飲みなさい。」

・・・。

「・・・いい。これだけで・・・。」

自分が・・参加しなくてはいけないのか・・。

指先から、温度が抜けていく。

母から受け取ったお弁当だけが温かい。

とりあえず、部屋に・・・。

どうすれば・・・・今から断りの電話をすれば・・電話?

電話なんて、出来ない・・それに、高校の知り合いがいないから友人経由の断りも出来ない。

・・・あぁ・・・もう・・・。

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