第9話 練習開始 ~ありがとう~
集会所での討論が終わった数日後から神楽の練習が始まった。
ちなみに、鳥居に一番近い屋台は、惣菜店「はるみ」に物になった。
当日は、一口から揚げを出す予定だという。
味は、4種類あり、ガーリック、岩塩、梅、カレー。
追加で、デップするマヨネーズとマスタードが選べる。
自分は、お祭り当日に買ってもよいのだろうか。
神楽の練習は、トヨさんの指導の下に行われ、音楽はカセットテープだった。
神聖な神楽をカセットテープで行うのは罰当たりにはならないのか・・・・
神楽の練習は、業務後に1時間程度行われ、自宅に帰る時間が遅くなると母に伝える為社務所の電話を借りる。
「あら?依天ちゃんが【神楽】を!凄いわ!さすが、依天ちゃん!御爺様にお伝えしなきゃ!いつそのお祭りはあるの?お母さんビデオ持っていくわ!親戚の方々にも連絡しなくてはいけないわね!それに、お世話になっている方々になにか持って行かなくちゃいけないわね!」
「まっ・・・て!親戚の人達呼ぶの?」
「そうよ?あらいけな!近所の方にもお伝えしなきゃ!」
電話越しで話す、母の声が遠くに聞こえる・・・。
・・・何か言わないと・・・。
近所の人に迷惑がかかる・・・・。
それに親戚の方々って一体何人呼ぶつもりなのだろうか・・・
いつの間にか気管支が締め付けられ二酸化炭素に肺が潰される感覚が支配していく。
受話器を握る手に汗が滲み、震える手が思考を焦らす。
何か・・
何か・・・・
断らないと・・・・
トヨさんにも商店街の人にも迷惑が・・・・。
社務所の温度は、水気を帯びているにも関わらず渇いていく唇が言葉を忘れる。
強く握っていた受話器をトヨさんが奪った。
トヨさんは受話器の向こうに話しかけているのにその声が聞こえない。
30秒も経たないうちにトヨさんが受話器を置き「練習するぞ」と集会所の方に歩いて行ってしまった。
遅れる思考よりも体が反応し前へ歩きだす。
一体なんと言っていたのだろうか・・・・。
潰れていた肺に、水気を帯びた空気が苦しいほどに入ってくる。
この苦しさは嫌ではないそう言っても良い気がした・・・
母から許可が出て5日が過ぎた。
神楽の練習は、とても順調に思えた。
自分は・・・・。
神楽とは、古代日本において祭祀を司る巫女自身の上に神が舞い降りるという。
神がかりの儀式のために行われた舞がもとになっている。
それら様式化して祈祷や奉納の舞となった。
前者においては古来の神がかりや託宣の儀式の形式に則って回っては回り返すという
動作を繰り返しながら舞うことなどで、その身を清めてからその身に神を降すという。
現在では優雅な神楽歌にあわせた舞の優美さを重んじた後者(「八乙女系」)がほとんどである。
昨夜、ネットで検索した神楽についてだった。
つまり、巫女自身が神様をその体に降ろす舞から、優美さを重要視した舞へと様変わりしたらしい・・・。
自分が練習している舞はその両方らしい。
これらを踏まえて、練習した舞を舞う。
自分の神楽を見たトヨさんと市川さんは、曖昧な表情をしている。
「・・・・。」
「ん~・・・。なんか違う!こう~なんか~・・・違う。」
全く分からない・・・
なんか?とは、何を指すのだろうか・・・。
自宅でも動きの練習をし、練習中も動きを間違えてはいなかったはず・・・・
何かが違うらしい・・・・。
最後まで市川さんは「何か違う」と呟いて、塾の仕事に向かった。
対照的に何も言わずただ、お茶を飲んでいるトヨさんに困ってしまった・・・・。
何が違うのだろうか・・・。
どうすれば、良いと言ってもらえるのか・・・・。
どうすれば、自分の舞を認めてもらえるのだろうか・・・・・。
自分には、見つける手立てがなかった。
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