第2話 巫女のお悩み相談室~行ってきます!~
御婆さんは、朝8時から夕方の5時までの時間をアルバイトとして、雇用してくれるらしい。
神社の仕事がどんなものかわ分からない・・・・。
昨日の夜に調べたものは、全てPC上のものだ、正解もあれば不正解も沢山ある。
その事を思い出し入れた知識にシュレッダーかける。
あの家に居たくなくて、始めたアルバイト。お金が欲しいわけじゃない・・・・。
ただ、あそこに居たくないだけ・・・。
そんな気持ちで、神社で働く事に後ろめたさを感じながら、神社へ続く道を見上げた。
「依天、朝早くからよくきた。今日から巫女見習いとして、比嘉丹様に仕えてもらうな。それと、わしの事はトヨさんとでも呼べ。」
「はい。・・・よろしくお願いします。」
「仕えるって、ばっちゃ!バイトだぜ?重いって!」
「明佳!おめぇは、境内の掃除してきたんか!それが、終われば回覧板回して来い!半人前が出しゃばるな。塾の前にやる事をやってけ!」
「げぇ、中井さんとこのおっさん嫌いなんだけど!」
「いいから!はよせ!晩飯抜くぞ!」
「ばっちゃ、それズリィー」
この家族は、いつでもこの調子なのだろうか?
とても息の合った漫才を見せられているよな。
羨ましいような、自身には真似さえもできないと感じた。
「まったく!朝から喧しい!すまないね、依天。それじゃ、仕事すっか」
「えっ・・・と・・あの・・仕事内容は・・・?」
「巫女の仕事は多い、覚えることも沢山あるな、まずは、境内の掃除、参拝者の記帳に社務所での販売、手水場の掃除、絵馬の管理、草むしり、野良猫の世話、近所の人との交流、晩飯の用意にそれから・・・まぁ、沢山あるが、少しずつ覚えるといいなぁ。」
「ばっちゃ、後半巫女の仕事じゃねえじゃん!」
巫女の仕事がとても多岐にわたるものだと、驚いた。
自身にこなせるとは少しも思わない。
「あと、最も大切なのは、比嘉丹祭りで踊る神楽を舞うことだな、これは、比嘉丹様に捧げる神楽だ!ちゃあんと覚えるてもらうな。」
「神楽?って踊りですよね・・・!無理です・・そんな・・・。」
神楽鈴を両手で持ち、神に捧げる神聖な踊り神楽。
それを自分が?とても出来ない。
それに沢山の人前で踊るなど不可能の極みだ。
「そうだよ!ばっちゃ!」
「神楽は、若い巫女が踊ってこそ!生娘の方が比嘉丹様もお喜びになる!それに、後援会のじじぃどもに今年は、若い巫女が舞うって言うといた!みんなが喜ぶ!」
「「・・・・・」」
「儂の若い時はなぁ~、青年会のもんが取り合とったもんだ。じいさんも嫉妬しとった!」
「ぎゃぁ~聞きたくねぇー!!ぎゃあぁぁぁぁぁー!!!」
「・・・・・。」
言葉が出ない・・。諦めにも似た境地と未知のものに挑戦するという事の仰々しさに、腰が引ける。
出勤初日に退職を考えた事は初めてだ。
選択肢がなにに等しいこの状況と「やれ」というトヨさんの眼が選択を迫る。
「謹んで、お受けします。」
神様に捧げる舞。心して取り掛かろう。逃げ場はないのだから・・・。
「よくいった!じゃあ仕事を教えるな。」
あれから1週間が過ぎた、トヨさんに言われた仕事を少しずつ覚えてきた。一番大変なのは、野良猫の世話。この1週間で4回引っかかれたでも、猫達を見ているとなんだか柔らかい気分になる・・・。
「にゃぁ~ん。」
この神社の空気も心地の良いものだと感じ始めた時に、またトヨさんに呼ばれた。
雇用主なのだから、呼ぶのは普通のことだが、この1週間で大声で呼ばれたのは初めてだった。
「依天!探した。依天に任したい仕事が1つあるこっちにこい。」
「・・・・はい。任せたい仕事?」
不吉だ・・・。神社で不吉なのは良くないと思うのだが、神楽の件を話した時のトヨさんの顔がよぎる。
年齢に似合わずの悪戯な笑みだった。
そして今もその笑みを浮かべている。
やっぱり。不吉だ。
「あぁ!じいさんが趣味でやってた仕事でな!明佳に引き継がそうと思っとたやけど・・・・・あいつには無理だな・・・依天なら出来る。やるか?」
「なんのお仕事ですか?」
無茶ぶりだ。
トヨさんの考えは読めないし、自身にとって、とてもプラスになる事だと考えている事は分かる。
しかし、内容が分からない。
「やるか!やらねえかを聞いてる!どっちだ?」
「・・・・・あ・・・の・・・・・えっと。」
「やればわかる!やってみ!」
「・・・・・・・はい。」
「やってみ」この魔法の言葉で、強く眼を見られると断れない事は、1週間で身に染みていた。
この言葉で、屋根に登った昨日は、強い思い出になった。
【巫女のお悩み相談室】ですか?」
「そうじゃ!じいさんがやっとた時は、宮司のやったが、皆も巫女の方が喜ぶやろ!」
少し、イカガわしい匂いがする。人の悩みを聞く?それは、カウンセラーの仕事であって巫女の仕事ではないと感じたが、あの強い眼はキラキラと光っている。
「・・・・具体的には何をすればいいんでしょうか?」
「なにも。」
「なにも・・・・ですか?」
「あぁ。ただ話を聞くだけや。」
「聞くだけですか・・・・・?自分に出来るとは・・・。」
「出来る!儂が出来るって言えば出来る!わかったな!明日から再開するなぁ!心の準備だけしとけ!」
仕事が1つ増えた。この1週間理解の出来ない出来事ばかりが起きる。
理解が追い付かない人達と自身の理解しがたい行動によって、慌ただしく過ぎていく。
この頃足元がフワフワしている気がするのは何故だろうか?
今までいろんなアルバイトをして来た、食品工場・ケーキ屋・レジ打ち・ウエイトレス・皿洗い・コンビニの店員・ビルの清掃そして、この間クビになった、電気屋の店員。
今までこんな気持ちを感じた事があっただろうか?
ただ、あの家に居たくないその一心で、外に出た。
3か月以上長くいたアルバイトはなく、また戻りたいという気持ちもない。
なのに、あの神社では、明日はなにをするのだろうと考えている自分に少し驚く・・・
家に帰る坂道から見下ろす景色は、とても清々しい気がした・・・
あの家に帰るのに、明日から仕事が増えるのに・・・・
なぜだろうか・・夜の暗さの中で家の明りが綺麗だからだろうか?
それとも、体を撫でる風がいつもより強くて心地いいからだろうか?
この気持ちの名前は・・・・なんと言えばいいのだろう?
仕事を初めて、1週間と4日が過ぎた、いつもの様に、境内の掃除をし、いつもの様に猫達にご飯を食べさす、まだ1週間しかたっていないのに、自分の顔を覚えているかの様にそばによって来る猫達。
動物を飼った事がないため、動物に懐かれるのは不思議だった。
自身が猫なら、1週間ちょっとの人間にお腹を見せる事が出来るのだろうか?
きっとしない、それどころか餓死寸前までご飯も食べないそんな猫になるかと思うと、少しだけ人間で良かった気がした。
「君たち、そんなんじゃ誘拐されちゃうよ・・?」
猫達は、返事をするように、長い尻尾を左右に振る。
「いーそーらー!おはっようさん!!」
「おはようございます。市川さん。」
市川さんは、自身をここに導いた恩人なのだが、生きている空間がと言うか、なんだか言葉では言い表せない処が合わない気がした。
優しくて、温かい眼なのに今を歩いていないそんな空気を醸し出している。
「めっちゃ!他人行儀じゃん!俺、依天の神様なのに(笑)」
「・・・おはようございます。神様・・・。」
撤回、ただ根本的に合わない人だと確認できた。
「いや!冗談じゃん!そんな冷たい目で見んなって!ばっちゃに聞いたけど、じっちゃの【お悩み相談】するそうじゃん!」
「はい・・・。でも、自分に出来るとは思えませんけど・・・。」
本心だ、御爺さんにお会いした事はないけど、あのトヨさんの旦那さんだ。
きっと一癖も二癖もあるはずだと思う。
「あぁー、出来るってさ!為せば成るっていうしさ、俺も手伝うし・・出来る!」
「昼から、塾の講師の仕事ですよね?どうやってですか?」
「えっと・・・どうにか・・かな?」
現実味の無い発言が通常運転なのだろうか?
「別に大丈夫です・・・。それよりも、母に勉強を見てもらう様にと言われているのですが・・・。」
少し、遠慮の色と困惑の色を合わせる。
本当に、迷惑の何物でもないけれども、母に言われていの事を実行しなければ・・・
そんな色が支配してしまう。
「あの話ね!覚えているよ!これ、お母さんが言っていた大学の過去問なんだけどさ、一回やってみ!暇な時でいいから!」
「ありがとうございます。」
簡単なお礼を言う。
ついでとばかりに、ずっと心にあった疑問を投げかけてみる。
「そういえば、御爺さんはどこにいらっしゃるのですか?アルバイトとしてきちんと挨拶するようにと母に言われてのですけど。」
「あら?ばっちゃ言ってないの?じっちゃは今、近所のおっちゃん達と全国の神社仏閣巡り中。なんか、俺に継がす前に宮司として、全国の神社を見たいっていって、去年の11月に行っちゃった♡」
「・・な・るほど・・。」
トヨさんもトヨさんだが、御爺さんも御爺さんだと感じた、似たもの夫婦というものだろうか?
「そうなるとここの宮司さんがいないですよね?行事とかはどうするのですか?」
「大きい行事は8月の下旬までないし、小さいのは俺が代理としてする事なってんの。」
「市川さんがですか?でも、塾の講師ですよね?」
「塾はあくまでも非正規雇用で、本業は権宮司なのだよ!」
「権宮司・・・ってたしか、宮司の代理が出来る神職ですよね?その下に禰宜とか権禰宜がいたりする。でも、権宮司って数が少なくて、置いている神社は少ないはず・・・?」
「めっちゃ知ってるね!いやー俺から教えられる事はここにはないな!」
満足そうな顔をしている市川さんは、とても塾の講師とは思えない。
神職は神社やその規模によって職階が分かれている。
宮司が1人の神社もあれば全ての職階がそろっている神社もある。
そもそも、この神社は、明らかな世襲制度を取っているため、自動的に市川さんが次の宮司になるのだろう。
宮司が不在の今事実上の宮司であることは確かであるが、市川さんが宮司の仕事をしている事は見た事はない。どちらかと言うと、事務や境内の掃除をして、内容的には巫女の仕事と被る。
また、神職と教職の二つを掛け持っている人も多い。
「一応、職階はあるんだけど、じっちゃが今不在だから権宮司って言ってるだけ(笑)それに、家の神社ボロイじゃん?俺の神社になった時に綺麗にしたいのよ。だから、講師のバイトもしてんの!」
「そうでしたか。ぜひ、神社の再復興に頑張ってください。自分で出来る事があるのであれば、手伝わせてください。」
「おう!任せろ!」
紺色のスーツに身を包んでいる市川さんが、いつもよりも頼もしく見えた。
もう一度、過去問のお礼と共に見送りの言葉を投げかけると、市川さんは笑って塾へと向かった。
夜の0時近くに帰ってくるとトヨさんに聞いた。
とても忙しいのに、こんなアルバイトにまで気を使える市川さんはきっと学生には人気なのだろう。
少しだけ、見直した。
母からアルバイトをする上で言われた事は2つ。
きちんとアルバイトをすること。
今年の受験に向けての勉強を怠らないこと。
市川さんが塾の講師だという事を大いに気に入っているみたいで、やたら隣町のデパートで買ってきたお土産を渡してくる。
どんな思惑があるにしろ、昼食と夕食を食べさせて頂いているので、お礼になればいいと思う。
「依天。ここに座って相談に来た参拝者の話を聞く。いいか?終了時間は5時。話の内容を折ってはいかん。きちんと最後までちゃんと聞くこと。」
「分かりました。あの・・・相談者が来なかったらどうすればいいんですか?」
「他の仕事をするか、本でも読んどったらええわ。兎に角そこに座といたらいい。正午から5時までや。それまでに動く仕事は、終わらす。」
「はい。」
「なんかあったら、そこの電話で儂を呼べばいい。頼んだぞ。」
相談室と言えば普通は、個室を想像するがここは、おみくじ札の隣にちょこんと、札がかかっているだけのものだった。
本当にこんな処に本当に相談者が来るのだろうか。
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