第67話

 具体的な詳細は知らないが、無事、正妻の権利はアテナが握ったらしい。アテナがいなかったら俺に出会えなかったということを言ったらすんなりと引き下がったらしい。


「ということで智くん!ボクと愛のキスをーーー」


「アホ」


 飛びついてくるアテナの頭に軽くチョップをして、顔をひょいとずらしてから体で受け止める。


「別に、正妻とか本妻とか関係なく全員好きだから………ほら、真面目な話し合いするぞ話し合い」


 次元の放浪者ってやつ倒さないとそもそもな話、幸せな未来なんてものは訪れないのだがら、それを倒す方が先決だろ?


 と、言うことですので家に戻り、全員が座れるような所は食堂しか無かったため、そこでアテナが現界したした理由と、今この世界が直面している問題について話し合う。


 アテナは問答無用で上座。全員が見渡せるようにそこに座ってもらった。


「それじゃあ改めて自己紹介を。ボクはアテナ。この世界の神さ。かつて、地上に降り立ち、勇者と一緒に魔王を倒したアテナとは違うけど、れっきとしたミゼラウスの女神さ」


 と、胸に手を当て、どこかむふんと自慢げに立っているアテナ。


「質問はあると思うが後にしてくれないか?今は話さないといけないことが沢山あるんだーーーね、いいでしょ?メイドちゃん」


「………そう、ですね。しっかりとお時間いただけるのなら問題は無いです」


 アテナという名前に対し、過剰に反応したのは、エリーのみ。シトラスとセラフィスは異世界組だから知らないし、アイハとグリゼルダさんは俗世から離れて暮らしてたから知らないのも無理はないし、ヘラとアリアドネに至っては魔族だからな。


 ちなみに、カリーナはアテナの名前を聞いた時はピクっと反応したが、今は口を挟むべきではないと悟り、目を瞑り黙っている。ほんと、聡い子だよなぁ………。


「それじゃあ話そうか。魔王ちゃんとヘラちゃんとアスタロトくんが見た黒い繭ーーーー次元の放浪者について」


 そうアテナが言うと、ヘラが自身の体を守るように、抱きしめた。それを見た隣に座るアリアドネがヘラに触れる。


「まず、ヘラちゃんに聞きたいんだけど、次元の放浪者ーーーーそうだね、仮称はアビスとしようか。アビスはどんな形をしていた?」


「………わ、分からないのです」


 ポツリ、ポツリとヘラは喋る。


「あれは……人の形をしていることは分かりました。私が見たのは、魔王様が為す術なく首を閉められている黒い影のようなものが見えて………」


「………なるほどね」


 うんうん、とヘラの話を聞いて顎に手を当てて考え出した。


「黒い影のみ……ならば、まだチャンスはある……うん、運が良かったねヘラちゃん。1歩間違えれば、君は即死だったよ」


「それ……は……はい。分かってます」


 魔王が為す術なくやられる?そんなことが有り得るのか?


「有り得るんだよ、智くん。彼らはそれほど強力だから」


「心読むなよ」


 俺に埋められている因子はアテナに直接埋め込まれたもの。当然、シトラス達とテレパシー的なことができるように、アテナとも可能だ。まぁ制度はアテナの方が上だけど。


「アビスはね、存在がとても希薄なんだ。だから、生きるために文明をーーー世界を喰らい尽くす。そう、ただ生きるためにね……」

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