その頃、アスタロトは

「……おいおいおい、マジでやべぇことになってんじゃねぇか……」


 智との戦闘に負け、命を預けたアスタロトは魔王城へ戻ってくるなり、困惑の声を上げた。


「まさか、本当にあの異世界の勇者が言っていることになるとは……ヘラとマモンは大丈夫なのかよ」


 バルバトスに対しては辛辣だったが、他二人に対して心配をする素振りを見せるアスタロト。誰もいない魔王城を飛び回る。


「おい!誰かいねぇのか!おい!!」


 広大な魔王城を飛び回るが、魔族一人も見当たらない。ついに魔王の間へとたどり着いたアスタロトは、勢いよく壊れかけの扉を開く。


「魔王様!失礼します!」


 勢いよく部屋を開けるアスタロト。その目に最初に移るのは、今までどうして感じられなかったのか、と言うほどの悪意を宿したものだった。


「……な、なんだあれ」


 空中に鎮座しているそれは、繭の形で静止している。周りを見渡すと、壁に背を持たれ、気絶しているヘラの姿を見つけた。


「っ、おい!大丈夫かよ!」


 普段は水と油のような関係のアスタロトとヘラだが、今だけはそんなことは関係なくなっていた。


「うっ………」


 ゆさゆさと揺すると、ヘラの意識が戻ってきた。


「こ……こは、」


「魔王様の間だ」


「まお……さま」


 その名を呟いた瞬間、ヘラの身に異変が起きた。


「あ……あぁぁぁぁぁぁ!!」


「お、おい!?どうした!」


 急に叫び始め、目に涙を溜めるヘラ。その目に移るのは、一体どれほどの恐怖なのだろうか。


「ーーーーーっあ」


「っ!おい!?」


 またまた、バタンと倒れ落ちるヘラを慌てて支えるアスタロト。


「クソっ!!こういう時にマモンは一体何処にいやがるんだ!!」


 姿を表さないもう一人の四天王にイラつき始める。


(…………こうなったら背に腹は変えられねぇ………今は命なんか後回しだ!)


 そう思うと、アスタロトは、ヘラを抱えあげると、どこかへ急速に飛び去って行った。

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