第50話

 あれから、すりすり擦り寄ってくるシトラスを何とか起こし、あんまり使用したことがない食堂へと向かう。ご飯はいつもエリーが部屋まで持ってくるから、食堂にわざわざ行く必要もなかったのだ。


 食堂へ入ると、一瞬だけだが、視線が集まり、中には驚きの視線を投げつける奴がいた。まぁ、屋敷貰った俺がこんな所にいるのはおかしいからな。


 キョロキョロと周りを見渡すと、潤を配慮してなのか、目立たない端っこにいる五条と潤がいて、潤が手をフリフリと振っていた。しかもしっかりと五条が潤をあまり目立たなように体で隠している。なんだあのイケメンスキル。


「お待たせ」


「待たせたのじゃ」


「ううん、気にしないで。僕もさっき来たところだから」


 と、潤が言った。潤もなかなかイケメンスキルが高いな。


「潤、あれからバレなかったか?」


「うっ………」


 と俺が聞くと、何やら潤がグキり!としたような顔になり、潤がちらりと視線をどこかにやった。


 一体どこを見て…………あー……。


「なるほど、彼女か」


「ちょ!?」


 潤の顔が一瞬で赤くなり、声を出そうとした瞬間に、バッ!と両手で口を覆った。


 なるほど………まぁ彼女にならバレるかなぁ。と、俺がちらりとそちらへ視線をやると、丁度彼女と目が合った。


 黒髪黒目のロングストレート美少女。まさに大和撫子のような人物は、目が合うと周りにはバレないように目で礼をした。


 俺も、彼女に任せなという意味で頷くと、安心したかのように顔を戻した。


「………相変わらずアツアツだな潤」


「ちょ……智、やめてよ……」


 さて、ぶっちゃけ言う必要ないかなとか思ってたけど、当然、潤もこの前まで男だったため、もちろん好きな女性はいる。


 それが、潤の婚約者である先程目が合った彼女ーーー奥野澄香おうのすみかである。


 なんでも家族ぐるみの付き合いらしく、親同士がこの二人を何とかしてくっつけさせようと画作したが、その前になんと二人同時に一目惚れするというなんともロマンチック(?)な出会い方をしている。


 そして、俺はそんな彼女と契約を結んでいる。


 そう、学校では俺が潤の面倒を見ることである。


 この二人は人目の多い所では、恋人して振る舞わない。だから彼女がいないと思われる潤に対しての防壁役として俺がいる。マシやばな男から潤を守ったり、女の魔の手から潤を守ったり……。


 そんなことして恋冷めないの?といったこともある。そしたらーーーー


「普段あっているからこそ、こうして場では合わないし、会話もしない。そしたらさ、家で合う時にとても嬉しくなるんだ。やっと澄香話せるんだって」


 ーーーと惚気やがった。ご馳走様です。末永く幸せになってください。


 だからアテナから勇者因子のことについて聞いた時は、あれ?やばくね?とか思ったけど、結局は惚れやすくなるだけのこと。必ずしも惚れるとかそういう訳では無い。


 まぁ、あの勇者メイドが変態だったから、因子の能力に負けなかったということもあるだろう。


 俺?俺なんてアテナ特製因子に負けまくりだよこの野郎。何人嫁にいると思ってんだ。


「まぁ奥野さんにはバレても仕方ない。そこは割り切ろう」


「そうだな。俺は彼女と緑川が付き合ってたことについて驚きだが……」


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