第36話

「んぐっ……!」


「ご主人!」


「智様!」


 鎖が身体から離れ、支えの無くなった俺に心配するように寄り添ってくれるシトラスとエリー。二人の助けで立ち上がると、カリーナが倒れないようにと、前へ回り込んで抱きしめてくれた。


「ふぅ、三人とも、ありがとう」


 少しだけ落ち着き、足元がしっかりしたので、三人から離れ、新たに俺がーーーーいや、アテナが俺のために呼び出してくれた人を見やる。


 土煙の中から、バサリ!と強い音を立てて現れるのは、三対六枚の純白と漆黒が半分ずつ別れている美しい翼。


 そう、今回アテナが異界より呼び出した死した魂はなんと天使なのであった。


 土煙が完全に晴れると、その天使の全体が明らかになった瞬間ーーーー。


「ーーーっ」


 俺は、思わずその姿に釘付けになってしまった。お祈りを捧げているように座っているその姿は物凄く神々しくて、美しい。


「ーーーー一度死した命。今、こうして心臓の鼓動が聞こえるのはーーーーあなたのおかげですか?」


 凛とした銀色の瞳と、視線があった。


「……不思議です。こうしている今も、暖かい何かに抱きしめられている安心感。とても……とても懐かしいです」


 フラフラ、と何かを求めるように俺の方へと歩み寄ってくる天使。俺は、無意識のうちに彼女を抱きしめていた。


「………暖かい……嗚呼、やはりあなたが私のマスターなのですね」


「………ん?」


 なにかの意志によって彼女を抱きしめていたが、何やら変な言葉が聞こえたので一旦正気に戻った。


「………マスター?」


「はい」


「俺が?」


「はい」


 美しい顔を眉ひとつ動かすことなく、俺を見つめ返してくる天使。


「私は堕天使フォールンの、セラフィスと申します。この体が朽ちても、あなたが死しても、一生傍にお仕えさせてください………」


「え………ええぇ?」


 ギュッ、と強く俺を抱きしめるセラフィス。セラフィスに対して抱いている感情は、困惑、そして、少しの愛情。


 多分勇者因子がそこら辺なんかやってるんだろうが……まぁそれはいいとしてーーーー


 なんなんだ!?この、無償にも守ってあげたくなる可憐さは!?


 身長はお世辞にも高いとは言えず、シトラスよりも少し身長が高いくらいで、抱きしめると俺の腕の中にスッポリとハマるこのちょうど良いサイズ。


 また、ちょうど胸あたりにセラフィスの顔があり、嬉しそうな顔ですりすりと甘えてくる。


 な ん だ こ の か わ い さ。


「………ぬぬぬ、なんなんのじゃあれ……可愛すぎるのじゃ」


「えぇ、同感です!少しだけ智様に抱きついてるのを見たら嫉妬しましたが、あの子ならいいです!むしろ私も抱きしめたいです」


「……………」


 後ろにいる3人もセラフィスの可愛さにやられていた。


「……コホン!俺の名前は大河智だ。一応、君を呼び出した……?復活させた……ことになっている!よろしくな!」


「はい!マスター!」


 こうして、新たな仲間(癒し)が加わった。

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