第35話

「………ここ、かのう?」


 レイスをポンポン浄化させながら、屋敷を歩き回ること約30分。カリーナもようやく慣れてきたようで、シトラスに呆気なく浄化される姿を見て、若干だが同情の目を向けていた。


 シトラスが止まったのは、この屋敷の一番奥に当たる部屋。流石にシトラスにそこまで先行させる気は無いので、一旦シトラスを下がらせてから、俺はドアノブに手を置いた。


「………ふぅ……」


 1度、大きく息を吸い、吐いてからドアを開けた。


「……ここは」


「ふむ……なんとも不思議な場所じゃの」


「物置……でしょうか」


 その部屋は窓が1つあるだけの普通の部屋。しかし、その物の量の多さから、窓から入ってくる太陽光はほぼゼロに等しく、部屋は薄暗かった。


 俺は、魔法で光源を生み出し、部屋を照らす。そこには、なんか高そうな壺とか、絵とかが沢山置いてあった。


 しかしーーーーーー


「……レイスクイーンらしきものはどこにも見当たらないな……」


 右を見ても、左を見ても、上を見ても、レイスクイーンらしき姿はどこにも見えない。あるのはどのくらいの価値があるのかも分からないものばかり。


「ふむ……一旦出直すしかないじゃろな……」


「出直す?」


 周りを見渡していたシトラスがそう告げる。


「のじゃ。レイスクイーンは、隠れるのが得意じゃからな。我でも探すのは一苦労するのじゃ」


「なるほどねぇ…………」


「それに、ここにいるレイスクイーンからは悪意をかんじないから、きっと襲われる心配は無いのじゃ」


「そうなの?」


「のじゃ」


 シトラスと目を合わせると、パスを経由し、シトラスの魔眼が俺に宿るので、部屋を見渡した。


「…………ふむ、確かに」


 屋敷の外から見た、屋敷全体を包む黒いモヤは見えないし、なんならちょっと白い光がもやもやとこの部屋を漂っているのが見える。


 白い光は魔眼を通じて初めて見たけど、多分良い奴なんだろう。この魔眼で五条とか見たらあまりの眩しさに失明するかもな。


「それじゃあ、シトラスの言う通り、一旦出直そうか」


 そして、俺たちはこの部屋から出た。


 これから住む上で、1番大事なことは何か。そうーーーー


「掃除をしますよ、シトラス様、智様」


 掃除である。長い間人が住んでいなかったこの屋敷。定期的に掃除をする人は来ていたらしいが、レイスが住み着いていたため、ちょっと汚い。


 なので、エリー指導の元、大掃除が始まった。


 この屋敷には、全部で部屋は八部屋あり、個室は全て二階。風呂、食堂、キッチンなどは全て1階にあるので、とりあえずまずは1階を掃除しようとのこと。


「ふむ………よし、いくのじゃお主ら」


 と、シトラスが魔法で使い魔を呼び出して掃除の手伝いをさせた。


 そこで、俺も閃いた。そう、なんなら俺も呼び出そうと。


 忘れてはならんが、俺の天職は死霊術師ネクロマンサーだ。アテナには勇者とか言われてるけど、本職は死霊術師ネクロマンサーである。


 ならば!!ようやくこの場にスケルトン軍団を呼べるということではないのか!


 と、言うことなので、一旦掃除はシトラスの使い魔に任せて、庭へ出た。


 シトラスにも今回は手伝ってもらい、魔法陣の準備が完了した。


 よし!それじゃあ行くぜ!


「目覚めよ亡霊たちーーーーー」


 魔法陣が、あの時のように一際強く輝き出した。


「我が呼び声に応え、その姿を表したまえ!!」


 よし、今回はあの時のような変な感覚はなーーーーー


『うぇ!?ちょ!智くん!?ちょっと召喚魔法使うの早くない!?』


 次の瞬間、脳内にアテナの声が響いてきた瞬間、とくん!とあの時と同じように心臓が一際強く鼓動する。


「……っ!?」


『もう!こっちは準備できてないけど……仕方ないね!やってあげようじゃないか!』


 空から鎖が降りてきて、俺の体に巻き付き、体の自由が奪われた。


「……っ!ご主人ーーーー」


『ごめんね、シトラスちゃん』


 異変に気づいたシトラスが、止めに来たが、アテナが俺の体から魔力の渦を出し、近づけさせないようにした。


「ご主人!ご主人!」


『大丈夫、悪いようにはしないよ……まぁ、智くんの貞操の危機がどうせ増えるけど……』


 おいこらアテナ!?お前、一体何する気だよ!


「ーーーーいでよ」


 俺の口が、あの時と同じように勝手に何かを紡ぎ出した。


 まさか、またなんか異界から呼び出すつもりか!?


『正解!魔王を倒して早く智くんとイチャイチャするためさ!このくらいの介入なんてやってやるさ!』


「死の世界から来たりし我の眷属よ!」


 魔法陣が、白く光った。


「我の名に応え、今、無垢なる姿を表したまえ!」


 魔法陣が、また強く光った。

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