第32話

 ………おうおうおう?今なんて言ったんだこの女神。


 なんて?嫁にする権利?


「……もう三人でいっぱいいっぱいなんですけど」


「なんてこと言うんだい!キミ!ボクの勇者様じゃないか!」


「……そもそも、さっきから気になってたんですけど、俺勇者じゃないですよ?」


 勇者は五条だろ。俺は死霊術師ネクロマンサーっていう、たまにネタでネクラマンサーとか言われる天職なんだよ。


 そう言うと、アテナはキョトンとしたような顔になり、『あ、そうか』みたいな顔をした。


「……あー……うーんとね……ちょっと話すけどいい?」


「はい」


「君達の体の中には、勇者因子が取り込まれている。その事はわかるかい」


 アテナが、俺の胸をトン、と人差し指でつつく。何やら体が熱くなった気がした。


「……はい」


「君達ーーーいや、がそのまま組み込まれてるんだけど、君だけは別。ボクが1から手がけた勇者因子が君の中に埋め込まれてるんだ」


 とくん、と心臓が、体が、勇者因子が反応をする。


「先代アテナの勇者因子は、一人としか愛を育めないけど、ボクの因子は別。共鳴する勇者因子だけじゃなく、ほかの要因とも共鳴反応を起こし、キミの体に流れ込む。例えば、吸血魔王ブラッドロードのシトラスちゃん」


 また、心臓が鼓動を刻んだ。


「君が勇者メイドとキスをして、気を失ったのは、その前にシトラスちゃんの因子ーーーこの場合、魔王因子とでも言おうかーーーーそれを取り込んで直ぐに、エリーちゃんの勇者因子を取り込んで、キャパオーバー」


 アテナが胸に当てている指が二本に増えた。


「そして、最後にアテナの系譜との共鳴反応ーーーつまり、さっき」


 三つ。指が胸に当てられた。


「アテナの系譜を君の勇者因子が取り込んだことで、君は更にパワーアップ。そして、ボクとイチャイチャする権利が発生した」


「おい最後」


 とりあえず、俺の勇者因子が特別製ってことは分かったよ。でも特に最後、それいる?


「ということさ!さぁ!思う存分!ボクとハグハグしよう!」


「ちょっと待てぇぇぇ!!」


 ガバッ!と抱きついてくるアテナの肩を抑えてーーーってこいつ力強!全くもって抵抗できんのだが!


「ふふん!君の勇者因子は誰が作ったと思ってるんだい!勇者因子の効力を無効化することなんて簡単だよ!」


「しまったァァァァ!!」


 ということは俺って、今、日本男子高校生並の力しか持ってないってことか!


 あ、なんか凄い体熱くなってきて心臓ドキドキしてきた!この女神!綺麗だからやけになんか意識するんだけど!


「ふふ……はぁ、これが人の体……暖かくて安心するよ……」


 首に抱きついてきて、頬をすりすりと俺の頬に押し付けてくる。うぉぉぉ…すげぇいい匂い、なんか、頭働かなくなってきた……。


「さぁ、ボクの愛しの勇者様………ボクだけの、最初の勇者様……どうか、ボクの因子を」


「………んっ」


 抵抗する暇もなく、アテナの口によって俺の唇は塞がれた。アテナから舌が俺の口内侵入してきて、経験したこともないような感覚が、更に脳を麻痺させる。


 ……これは、まずい…っ!堕ちる……!


 力がどんどん抜け、アテナを支えきれなくなった俺は、色とりどりの花畑へと押し倒された。


「んっ……れろっ……ちゅ……」


 水音が誰もいない世界に響き、空気を求めてどんどん荒い息になってーーーー俺は、アテナの唾液を飲み込んだ。


「……っ!」


「……んっ、ぷはぁ!」


 飲み込んだ瞬間、一気に脳が重たくなり、瞼が自分の意思に反して、下がり始めた。


「……ふふ、今日はここまでだね………この続きは、いずれ……ね?」


 アテナが俺の目を手で覆い、耳元で囁く。


「今は、あの子たちに任せるよ。ゆっくりとお休み、ボクの勇者様………」


「あて………な……」


 頬に、唇が当たった感触を最後に、俺の意識は再び闇に落ちた。

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