第30話

「大河!」


「ん……」


 後ろから、俺も呼ぶ声が聞こえたので、振り返ると、勇者の五条とそのメイドであるメリルさんがやってきた。


「必要ないとし思ったけど、一応えんぐんーーーーー」


 ズドーン!と、後ろからなにか倒れる音がしたので、後ろを振り向くと、首と胴体がおさらばしているバルバトスの死体が倒れ込んだところだった。


「………どうやら本当にいらないようだね」


「……おう、ぶっちゃけ俺なんもしなくても勝てたわ」


 シトラスが腕を振るっただけで倒してしまった魔王四天王である、狡猾………いや、迂闊だったバルバトス。


「ふむ……邪魔じゃのう」


 今はシトラスに燃やされてしまい、灰すらも残らなくなってしまった。


 ……うん、もうシトラスだけでいいんじゃないかな。


 その後、エリーが来て、もう終わってしまっていることに驚き、アテナ王の元に報告へ行くことに。五条にはクラスメートの方に戦闘は終わったことについての報告を任せた。


 メルトがどうなったかと言うと、速攻で五条が首を跳ね、死体処理は兵士の人に任せたらしい。


「智様!」


「おっと……」


 謁見の間に入ると、カリーナが飛び込んできた為、しっかりと受け止める。


「私、しっかりと智様の勇姿をこの目で見させてもらいました!」


「………勇姿……?」


 俺がやったことと言えばバルバトスに不意打ちしたことと、バルバトスを盛大に煽ってやったくらいじゃね?そんな勇姿と言えるような活躍なんてしてないし、


「はい!バッチリとシトラス様の使い魔から送られてきた景色を見ましたわ!智様が腕を振るうと、あの四天王の首が飛んだのを!私はしっかりと見ましたわ!」


「……………ん?」


 チラっ、とシトラスを見ると、何故かグッ!とサムズアップした。


 ……え?なんで俺がバルバトス倒したことになってんの?


「……えーっと、そ、そうかー。しっかりと見ててくれたのかー」


 シトラスがどんな意図を持って俺の手柄にしたのかは知らんが、なんか意味があるはずなので、とりあえず乗っておくか。


「はい!ますます、私は智様に惚れ直しましたわ!」


「そっ、そっかー」


 そうかー。惚れ直して………って、え?


 なんて?惚れ直した?


「……なんて?」


 さて、俺は難聴系主人公になった覚えはないが、とりあえず聞き間違えたということにして、もう一回聞くか。惚れ直したじゃなくて……ほれ……ほれ……そう、撮り直したかもしれんし……って無理だよな、うん。


「……も、もう。何回も言わせないでくださいまし……その、智様に惚れ直しました!」


「…………………」


 はい聞き間違いじゃありませんでしたー!!


 え!?なんで!?そもそも俺、なんかカリーナ姫に対してなんか好感度あげるようなことしてたっけ?


 後ろにいるシトラスとエリーに視線を向けるが、シトラスは、先程と変わらず、親指を立てるだけ。エリーに至っては拍手しているし。


 最後の望みとして、王様を見る。こういう時、大体一人っ子の父親ってものは面倒臭いはずだろう!


 望みを向けて、王様を見る。アテナ王はニコリと笑うとーーーーーーー


「カリーナをよろしく頼むぞ、智どの」


「だにぃ!?」


「む………なんじゃ?カリーナでは不満か?」


「あ、いえ。そういう訳では無いんですけど」


 ……なんで?なんで王様そう簡単にOK出したんですか?違うでしょ。ここは娘はやらん!的な展開のはずでしょぉ!後継とかどうするんですか?


「何、儂がちょっと頑張ればいいだけじゃろ」


「……………………」


「これからよろしくお願いします!智様!」


 と、カリーナに不意打ちでほっぺたにキスをされた。


 そして、次の瞬間、体全体が鼓動を刻んだかのように、心臓が強く振動した。


「んぐっ!?」


 体に強い力が流れ込んでくる。


 これは、あの時と同じで、エリーにキスをされた時と同じで、勇者因子のーーーーーーー


「さ、智様!」


「ご主人!?」


「智様!」


 俺は、意識を無理やり持っていかれたのであった。


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