第29話

「……おうおう、来たな」


 俺の目の前でグルグルと回る魔法陣。王城の中庭の隅に巧妙に隠されていた魔法陣だが、今は怪しげな光を発していた。


「ふむ……そこそこな魔力反応じゃな…まぁそこまで強い力は感じぬが」


 じっ、と魔法陣を見るシトラスを習って俺もじっと魔法陣を見つめてみる。


「………俺にはよく分からんな」


「まぁこればっかりは経験じゃの。だからご主人、そう落ち込まんでも大丈夫なのじゃ」


 と、ポンポンと肩を叩いてくるシトラス。


「………まぁいいや。とりあえずシトラスは出てきそうになったら教えてくれない?」


「?……別に大丈夫じゃが……何するのじゃ?」


「いやなに……出てきた瞬間に魔法でもぶち込もうかなぁって」


 だって向こうは俺たちが目の前に堂々と突っ立ってるなんて思ってもいないと思うからな。ササッとぶっ飛ばして、ササッと終わらせよう。


 だって相手悪役なんでしょ?わざわざ全部出てくるまで待つ必要なんてないしね。


 魔力を練り上げ、シトラスの合図に直ぐに反応できるように、スピード性の高い魔法で……魔力結構込めて……よし!準備OK!


「よし、シトラス。こっちは準備いいぞ」


「分かったのじゃ………そろそろ来るのじゃ」


 グルグルと激しく魔法陣が回転し始め、宙に浮き上がる。


「今じゃ!」


「滅べぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 魔法はイメージが大事というので、とりあえずなんかレーザーっぽいやつをバルバトスへ発射させる。そして、完全に魔法陣からバルバトスの姿を視認した瞬間に俺の魔法がバルバトスへ当たった………が。


「………………防がれた?」


 確実に相手を殺ったという感触が沸かなかったし、勇者因子の方もまだまだ活性化している。


「見たいじゃの……じゃが、無傷ではないようじゃ」


 見れば、バルバトスは両手を前に出し魔法壁のような物を出して防いでいたが、両手やらなんやら、そこら中から血が吹き出ていた。


「……よし、トドメだなーーーーっと」


 魔法を練り上げた瞬間に、バルバトスの姿が消えたと思うと、急に目の前に現れ、腕を振り下ろしてきたので、後ろに飛んで回避する。


「……人間、そうか、貴様がメルトの報告にあった……」


 じろり、と俺とシトラスを見ると、バルバトスから先程感じた魔力の流れを感じる。


 あいつ、まさか逃げる気か?


「させぬ………フンっ!」


 魔眼を発動させたシトラスが腕を振るうと、バルバトスが練り上げた魔力が霧散した。魔法発動の失敗である。


「……ば、バカな!!貴様っ!一体何をした!」


「阿呆。わざわざ敵に仕組みを教えるわけないのじゃ」


 はぁ、と呆れたような顔をするシトラス、まぁたしかにわざわざ死ぬと言っても敵に情報を与える真似なんてしないわな。


 さて………煽るか。


「確かにな。『狡猾』のバルバトスとか言われるから凄い頭のキレるやつだと思っていたが………この調子だったら狡猾よりも『迂闊』の方がお似合いだよなぁ」


「全くその通りなのじゃ」


 俺の意図的な煽り攻撃と、シトラスの無意識的な煽りがバルバトスへと突き刺さった。


「…人間ごときが……っ!我々を…俺を見下すでは無い!」


 と、大声で叫ぶと魔力を練り上げ魔法を俺たちに向かって発動させた。


「任せるのじゃ」


「シトラス?」


 シトラスが俺の前に出ると、何やら俺の魔力がゴッソリと持っていかれるような感じがした。これは……多分シトラスがパスを経由して俺から魔力を吸い取っているのか?


 まぁ元々シトラスの魔力だしな。シトラスから見れば、元の魔王の力に戻っているのだろう。


 シトラスが腕を前に出すと、片手でバルバトスの魔法を受止め、そして消失させた。


「なっ……バカな!!」


 バルバトスが羊顔を驚愕の色に染めた。


「……なるほどのう……色々と分かったこともあるし、もういいのじゃ」


 と、腕を振ると、バルバトスの首と胴体がおさらばした。


 …………ん?


「……あれ、シトラスさん?」


「のじゃ?」


 コテっ、と首を傾げるシトラス。色々と聞きたいことがあったが……まぁ可愛いのでいいや、別に聞かなくても。


 シトラスは可愛くてつよい。はっきり分かるんだね。

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