第26話
「………黒だな」
「黒ですね」
「黒じゃの」
シトラスが放っていた使い魔からの情報を見た俺、エリー、そしてシトラスは前々から怪しいと思っていたメルトさんをヤベー奴だと本格的に判断した。
いや、だって襲撃とか、誘拐とか言ってたし、そもそもバルバトスって魔王四天王の一人だし…これ、完璧にメルトさんが魔王側の人間じゃん。スパイでも頼まれてたんやな。
とりあえず五条にだけ伝えておくか。この分だとワンチャンジョセフさんも怪しいし。
「うむ、あの勇者だけに伝えるのはいい事じゃろうな………」
「それでは、私はアテナ王にこっそりと連絡してまいります」
うんうん。姫様を誘拐とかとか言ってたからね。俺、この国の姫様見たことないけど。
そして次の日、俺は朝早くから五条の部屋に突貫し、メルトさんヤベー奴事件のことについて話した。
「………これは」
シトラスの使い魔からの映像を見た五条は顔を顰める。
「……なるほど、君が俺にだけ伝えた理由が何となく分かったよ」
「そうか。そしたらシトラスの使い魔をお前のとこにも預けとくな」
「うむ、勇者よ。それを使うのじゃ、我らは新しいのを準備しておく」
「分かった。ありがとうシトラスさん……それと、大河、こっちのことは任せてくれ」
「頼んだ」
こくん、と頷きあってから五条の部屋を出る。俺が五条に頼んだのは、王城に侵入してくる魔王軍の殲滅と、生徒達の結束、そしてメルトさんの捕獲である。
仕事が多いかもしれんが、勇者である五条は守るよりも攻める方が圧倒的に強いし、クラスの中心人物だし、俺だったらメルトさん逃がしちゃうかもしれないし。
だから俺たちはバルバトスが使うであろう魔法陣をゆっくりと精査しながら、魔法陣を壊していく方針でーーーーーー
「あの……智様」
「ん、お疲れ様エリー。アテナ王への報告は終わったの?」
「あの……はい、終わったと言えば終わったのですが………」
「……?」
妙になにやら歯切れの悪いエリーにはてなマークを浮かべるシトラス。
「……その、アテナ王がお呼びです」
「…………へ!?」
アテナ王。正確に言うとアテナ・オルフェウス18世。オルフェウス王国18代目アテナであり、この国では女神アテナと同格視されている現人神である。
「面をあげよ、勇者智殿それに、シトラス殿」
「は、ハッ!」
「のじゃ」
威厳のある声に小さく体が震える。こえーんだけどまじ!立派なお髭がさらに威厳を醸し出している。
さっきエリーに『とりあえず、片膝ついて頭を下げれば大丈夫です。後は王の指示に』という言葉なかったからきっと俺は尻もちついてる。
「智殿は二回目……シトラス殿は初めてであったな」
「お初にお目にかかるのじゃ。我の名は、人呼んで『
ちなみに、既にアテナ王にはシトラスが魔王であることを伝えているので大丈夫である。
シトラスが来ているゴスロリのスカート(?)の裾を持ち上げて挨拶をする。
「うむ。よろしく頼むーーーそれでは本題に入る」
一瞬だけ弛緩した空気が元に戻る。
「今回の宮廷魔法士である、メルトの裏切り、非常に大儀である」
「あ、ありがたき幸せ」
多分これで合ってる!多分!
「智殿には感謝とーーー一つ依頼を頼みたい」
「…依頼ですか?」
「あぁ……カリーナ」
「はい、お父様」
と、アテナ王が声をかけると、隣にいた大体九歳くらいの女の子がこちらへやってきた。
「初めまして、勇者智様。私の名前は、カリーナ・オルフェウスと申します」
と、来ているドレスの裾を掴んでシトラスと同じように挨拶をする。これは俺も挨拶した方がいいのか?と一瞬でシトラスのアイコンタクトを交わし、『やれ』との事だったので挨拶をした。
「初めましてカリーナ姫、俺ーーーーいや、私の名前は大河智といいます。よろしくお願いしますね」
と、努めて笑顔を出した。よし、よくやったぞ俺。
「今回から勇者達は訓練帰りなので、二週間の休養の建前に、智殿、並びにシトラス殿には、我が愛娘、カリーナの護衛を頼みたい」
「へあ?」
変な声が出た俺は悪くないと思う。
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