第16話

 あの後、たまーに二人くらいのご令嬢に囲まれながら何とか終わった歓迎会。潤が男から結婚を申し込まれ、傷心した傷を癒すべく、結局はやけ食いする潤の給仕をしていた。終わった後にトイレで吐いてた。


 はぁ……やっぱこの部屋落ち着くわやっぱ。まだこの部屋に滞在して二日だけど落ち着く。


 さっきから不自然な程に静かなシトラスの手を引き、ベッドへ座ーーーーろうとした瞬間。何かの力で俺は、強制的に壁に背を向ける形ですわらされ、シトラスがそのまま俺へと抱きついてきた。


「……し、シトラス?一体どうしーーーーー」


「はぁ……はぁ……ゴクッと」


「ーーーシトラス?」


 明らかに様子がおかしかった。いつもよりなんだか呼吸音が荒いし、なんか生唾飲み込んだし。


「はぁ……ご、主人……」


「ど、どうしーーーっ!!」


 紅色に綺麗な瞳。だが、今のシトラスの目は、まるで血に染ったかのように赤くなっていた。


「血……血が欲しいのじゃ……」


 ……血?


 ……あぁ、血ね。はいはい。


「ほれ」


 俺は制服を少しずらしてから、首筋を見せる。いやまぁ首筋じゃなくてもいいかもしれないけど。


「………い、いいのか……?」


「いいから……ほら、吸って」


「……っ!」


 カプっ。


「……いっ……」


 痛いのは、首に牙が刺さったこの一瞬だけ。こきゅ、こきゅ、と血が吸われていくのを音を聞いて感じる。


 ………今更だけどこれって貧血ならないよね?血って何ミリリットルまでなら取られていいんだっけ……。


「…コキュ……コキュ……んっ」


「……ま、いっか。その程度」


 俺は、そのままシトラスの頭を撫でながら吸血が終わるのを待った。


 体感約2分程度。首筋にあるちょっとした違和感が抜け落ちる。


「………ちろっ」


 そして噛まれた部分を舐められた。シトラスが顔を離した後にそこを撫でると、特に傷跡らしく感覚はなかった。


「……んむ。ご主人、とても美味な血だったのじゃ」


「……それは良かったな」


 俺は、若干フラフラ気味だけど。


「……シトラス、俺は寝るけどどうする」


 ふわふわした頭でベッドへ横になる。


「……どうする言われても我、ご主人に抱きしめられて身動き取れんのじゃが」


「んー………」


 意識がどんどんと落ちていく。これは久々のぐっすりコースだな。


「ご主人……ごしゅじーん?」


「………すぅ」


「………寝たのじゃ」







 ぐりん!!


「おわ!な、なんだなんだ!?」


「……ぬぅ?」


 突如体が宙に浮く感覚がしたと思ったらそのままベッドへ急降下。50cmくらい多分浮かんだ。


 慌てて目を開けると、そこには何やら笑みを浮かべているエリーが……………。


 ダラダラダラダラ……と汗が尋常じゃないほどに溢れ出す。俺には見える……エリーの後ろに般若の姿が見えるよ!!


「………智様?」


「ひゃい!?」


「……腕の中にいるシトラス様と一線を超えたのですか?」


「そ、そんなことは決してーーーーーん?腕の中?」


 チラッとそういえば何か抱きしめてんなーと思っていた何かを見るため、視線を下へ向ける。


 そこには、寝起きなのかどうかは知らないが、俺の胸へすりすりと甘えてくるシトラスの姿が……。


 ………んー?


 俺は昨日の記憶を漁ってみた。確か訓練して、シトラス召喚しちゃって、なんか歓迎会して、潤が食べすぎで吐いて、シトラスに血を吸われて……………吸われて……あれ?


 血を吸われてからの記憶がぼんやりと無い。


「シトラス?シトラスさんやーい」


「んぅ……どうしたのじゃご主人」


 眠そうなを掻きながら俺の声に応えてくれるシトラス。


「俺さ、血を吸われてからあとのことの記憶ないんだけど、何かあった?」


「ん?ご主人はそのまま我を抱きしめて寝たぞ。特に何も無かったのじゃ」


 なるほど………つまり、俺の記憶がないうちにDTは卒業していないと。


「ということだエリー。特に何も起きてなんかいなかーーーーーー」


有罪ギルティです」


「なぜ!?ぎゃあああ!!」


「ご主人!?」


 不思議な力ーーー多分魔法だと思われーーーにぶっ飛ばされ、ベッドのうえで何やらグルグルと回転させられる。


 何故だ!!俺は一体何をエリーの琴線に触れることをしたんだ!!


「……私も、抱きしめられて一緒に夜をお供したかったです……」


 可愛らしい嫉妬だった。

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