第15話

「……ぬぅ……ご、ご主人……我は昔からこのような催し物が苦手なのじゃ」


「安心して。俺もパーティーとか超苦手」


「全くもって安心できないのじゃ!」


 現在、王城のなんかの大広間。エリーから勇者歓迎会を行うと言われ、来たのは良いものの、クラスメイトだけじゃなくてなんか綺麗なドレス来た人とかなんか偉そうな人とかいっぱいいてびっくりした。


 シトラスとは手を握っており、あまりの人の多さに俺の手だけでなく腕さえも掴んでしまう始末。そして更に俺も人酔いするタイプである。


 シトラスが認識阻害とかいう魔法を使ってくれて本当に助かる。だから俺達は端っこの方でゆっくりとご飯を食べることができる。


 ……あ、このお肉おいしい。


 ちなみに勇者であるイケメン五条亘くんは、どこから漏れたのかは知らんけど、貴族のご令嬢っぽい人達にめちゃくちゃ囲まれている。たまにこっち見んのやめろ。後認識阻害かけてるのになんで場所分かるの。


 潤は潤で男に囲まれている。どんまい、強く生きろよ。


「………おっ」


 メルトさん発見。俺が訓練中に起こしてしまった『スケルトン呼び出そうと思ったけど人が出てきてしまった事件』について報告しないとな。


「ちょっとシトラス、俺用事があるからここで一人でーーーーーーーー」


 ガシッ。


 一人でと言った瞬間に手ではなく腕を抱きしめられて全力で行かないでアピール。


「……一緒行こうね」


「!う、うむ!」


 何この子。超可愛いんですけど。召喚された時になんか凄いテンプレ魔王台詞言ってたとは思えない。


 分かりやすく顔をほころばせるシトラスを連れてメルトさんの元へ。ちなみに、認識阻害についてだが、これは存在感を魔力で覆って隠すという魔法である。


 簡単に言うなれば、俺達は今路傍の石。目につくけど別に気にしない程度の存在感である。


「メルトさん」


「……?あぁ、智くん……と、その子は召喚された子だね」


「はい、シトラスって言います」


「う、うむ……シトラスなのじゃ」


「シトラスさんですね。よろしくお願いします」


 柔和な笑みを浮かべてシトラスへ挨拶をするメルトさん。笑った顔もイケメンだなぁ。


「それで智くん。何か知ることが出来ましたか?」


「はい、この子はどうやらこの世界のはるか昔に死んだ人のようです。俺の死霊術師ネクロマンサーという天職が過去の魂を呼び起こした……と、彼女が」


「……………」


 ギュッ、と力を込めて俺の腕を抱きしめる……どうしたんだ?


「随分と懐かれたご様子ですね」


「えぇ、そうですね」


 と、話をしていたが、何やらメルトさんがどこかのご令嬢に呼ばれてしまい、俺たちに1つ挨拶をしてからその場を去った。


「ふむ、理解ある人でよかっーーーーーーシトラス?」


 腕をクイクイっと引かれ、シトラスの方を見ると……何やら険しい顔でメルトさんの後ろ姿を見ていた。


「……ご主人。気のせいならば……いや、我の魔王として鍛えた目が言っておる」


 シトラスが目を細めた。


「ご主人。パスを通じてあの男を写し出すーーーー視界を借りるのじゃ」


 と、シトラスが言った瞬間、一瞬だけ目が痛んだ瞬間、テレビのチャンネルを変えるように視界が切り替わった。



 いつもよりも低い視界。それだけで俺のでは無いことが分かりーーーーーーそして、メルトさんを覆うように黒いモヤが発生していた。


「………あれは」


「……ご主人」


 視界がまた切り替わる。メルトさんを見ても先程の黒いモヤは写っておらず、ご令嬢の顔を赤らめさせる綺麗な笑みを浮かべた。


「あいつはきっと、腹の中に何か危険なものを孕んでいるのじゃ。気をつけるのじゃ」


「…………あぁ」


 なんとなくだけど分かる。シトラスの魔王としての力だけではなく、勇者因子の方も反応を示した。


 俺には、あの笑みがとても不気味に思えた。


「さ、智~」


「ん?」


 声が聞こえたので、一旦メルトさんを見るのをやめて声が聞こえた方も向いた。


「………潤?なんでそんなにやつれてるの?」


「僕に結婚を申し込む人が多いからだよ!」


 クワッ!と大声を出す。何事かと周りの視線がこちらへ向いた。


「……あら、あの人いたかしら……」


「ほう……あの少女、中々美しい」


「勇者様とは違う感じの素敵な人だわ……」


 ……おいおい。潤さん?何大声出してるの?目立ってるじゃん。何してくれてんの?


 の前に……なんて?結婚?


「え?お前おとーーーーーごめん」


「なんで謝ったのかは聞かないで置くけど僕これでも立派な男の子のなんだよ!何が『嘘なんてつかなくて大丈夫ですよ聖女様。僕の瞳はあなたの真実を映し出してる』だよ!真実も何も僕を男して見れてない時点で腐ってるよ!うわーん!!」


「………こやつ、中々苦労しておるのじゃ」


 ………潤、強く生きろよ。


 この後の俺達はやけ食いする潤の食事を持っていく手伝いをした。


 そして何故か俺もなんかご令嬢に囲まれた。一体何故なのかは分からなかった。


「そ、その……お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


「ずるいですわよ!あの、私ーーーー」


「………………???」


 何とか振り払ったはいいが、なんかめちゃくちゃシトラスに睨まれた。

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