第13話

 結局、俺たちは主従という関係ではなく、対等な仲間という立ち位置に落ち着いた。


 シトラスのことはこの世界で息絶えたかなり強い人ということにしておく。異世界の魔王とか言ったら、シトラスのことを殺そうとするやつがいるかもしれんがな。


 そして現在、シトラスは何故全盛期の力が半減しているかの調査中で、イスに座りながら何やら「ムムム……」どうなりながら目を閉じて集中している。


 あんなに集中しているとめちゃくちゃイタズラとかしたくなってくるのだが、そこは鋼の意思で我慢。ほっぺたをつんつんしたくなるけど我慢だ。


「……むぅ、ご主人、あまりこちらを見るでないのじゃ、なんか恥ずかしいでは無いか」


 ちなみに、呼び方はご主人になった。一応召喚されたものと召喚したものの差くらいつけておこうとのこと。


 恥ずかしそうに目線を逸らしながら言うシトラス。可愛い。


「………むぅ、ご主人……何故我の頭を撫でるのじゃ……これも恥ずかしいのじゃ……」


「………はっ!」


 ヤバっ。無意識的にシトラスの頭を撫でてしまった。なんか……こう、シトラスを見るととんでもなく頭を撫でたくなる衝動に駆られるというかなんというか……。


「その……悪いな、不愉快だったか?」


「…………別に、そんなことはない、のじゃ」


 ほれ、だからもっと撫でろとシトラスの頭から話した右手の袖をクイクイっと、若干弱めに引く。


 …………何だこの子超かわえええええ!!!。


「……ごめんシトラス。抱きしめていい?ってか抱きしめる」


「のじゃ!?や、やめるのじゃ!ご、ご主人!えっちなのはだめーーーーむ?」


 最初はちょっと抵抗していたシトラス。しかし、いざ抱きしめたら抵抗はやめ、自分から顔をーーーてか耳を俺の心臓の音を聞くように押し付けた。


「……………あったのじや」


「………何が?」


 主語が抜けていたため、聞き返す。シトラスは真剣な瞳で俺を見つめた。


「我の。なんとご主人の中に埋まっとるのじゃ」


「…………???」


 なんて?シトラスの力の半分が埋まってる?


「先程から何故、我はご主人に触れられると、どことなく安心する理由か、我とご主人が主従という関係だからと思ったがーーーー全て合点がいった。ご主人には我の力がこのパスを通じて埋め込まれたのじゃ」


「………つまり?」


 え?俺って今かなり強化されてる感じなのかしら?


「ご主人は今、我と能力値は同じ……いや、我よりも少し高いくらいか……位の力がある」


「具体的に言うと?」


「この国ぐらいだったらちょっと頑張って滅ぼせるくらい」


 今更だけど魔王の力の具体例としてこの国滅ぼされるのなんか可哀想じゃね?いや、まぁとてもわかりやすいんですけど。


「……とりあえず、俺って今超強くなってるって思ってて大丈夫?」


「うむ、そう思ってもらっても大丈夫なのじゃ」


 コクコクと頷くシトラス。


 そういえば俺たちって今抱き合ってるんだよね。衝撃的事実がそれを今シトラスの頭から抜け落ちてる。


 ………これ、いつ気づくかな。


 その後、シトラスは俺に指摘されるまでけっきょ抱きしめられていることに気が付かなかった。


「の、のじゃ!?ご主人、ちょっと離れるのじゃ!あまりにも心地いいから我も忘れておった!」


「え、ごめんけどシトラスの定位置今から俺の膝の上ね。なんかめちゃくちゃしっくりくる」


「や、やめるのじゃ!この体勢は色々と!色々とまずいからやめるのじゃ!」


 結局落ち着いたシトラスだった。












「……ふむ、こうしていると父様かまだ生きていた頃の記憶が蘇るのじゃ」


「そうか?」


「うむ……父様はいつも優しく我のことを撫でてくれてな………んっ、ご主人、もっと強く抱きしめてくれ」


「ほいほい」


「あの………智様?何をしてらっしゃるのですか……?」


「エリー」


 シトラスの心の寂しさを埋める(9割くらい役得)ためにシトラスの要望に応えながら頭を撫でたり腹を摩ったりしていると、扉を開けたエリーがジト目でこちらを見ていた。


「……ご主人、誰じゃ?」


「んーと、この人は……」


「智様、大体のことはメルト様から事情は聞いております」


 あら、そうなの?


 エリーはシトラスは見ると、恭しくスカートの両端を摘んで持ち上げる例の挨拶をする。


「初めまして、私、智様のメイドのエリザベス・クロッケンと申します」


 ……なんか今、あからさまに専属の部分を強調したな。


「うむ、我はシトラスじゃ。よろしく頼む、エリザベス」


「はい、シトラス様。よろしくお願い致します。それと、私のことはエリーと」


「うむ、了解したのじゃ」


「それでーーーーーー」


 ーーーゾクッ。


 エリーがシトラスから俺へ目線を動かした瞬間、背筋に物凄い悪寒が走り、額から汗が滲み出た。


「智様、これは一体どういう状況なのでしょうか」


 それはそれはとても綺麗な笑みを浮かべるエリー。


「ヒッ……ご、ご主人……エリーのあの目……我もちょっと怖いのじゃ……笑ってるのに笑ってないのじゃ」


 しかし、顔は一切笑っておらず、めちゃくちゃヤバい雰囲気を醸し出すだけであった。


「……あれは覚えがあるのじゃ。あれは母様が父様に向けていた目と同じなのじゃ………」


 ちょっとおとうさーん!?

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