第4話

 異世界料理。とても美味なものであった。お肉なんかスーパーで売ってるのよりも安いし、なんかキャベツとレタスが合わさったような野菜とかめちゃくちゃシャキシャキしてるし、この謎の赤いジュースもめちゃくちゃ上手いし。なんて表現すればいいのか分かんないけど。


 王城の料理なのだからこんなにも上手いのかね。


 チラリ。目の前にいるエリーさんの様子を盗み見る。


 ……うーむ。先程から話しかければ笑顔を見せてくれるが、何やら直ぐに顔を曇らせてしまうエリーさん。なんだ?隠し事か?


 と、こんな感じでずっとチラッチラッと眺めていたが、食事が無くなる事にどんどん顔は曇っていく。迷っているのかな?


 そしてついに、俺とエリーさんが食事を終わらせたタイミングで、エリーさんは椅子から下りて土下座を披露してしまった。


「…………ちょちょ!?何してるんです!?エリーさん!」


 俺が止める暇もなく地面へ額を擦り付けてしまったエリーさん。俺は慌てて頭をあげるようにふんぬー!と肩に手をやって挙げさせようとするが、ビクともしない。やだっ、俺って貧弱?


「申し訳ございません智様。私はーーーいえ、私達はあなたがた勇者方を試すような真似をしてしまいました」


「………ほえ?」


 試す?どいうこと?


「実はーーーー」


 とりあえず土下座されたまま話し始めたのはいただかないので、命令して土下座を辞めてもらい、普通に椅子に座って話してもらう。


 何やらエリーさんは普通のメイドではなく、勇者とともに行動を共にすることで、勇者の身体能力やらなんやらを2倍にしてくれるという特別なメイド、『勇者メイド』という存在らしい。何やら俺たちの前に来た勇者が残した副産物だとか。


 まぁその話は今はどうでもいいとして、勇者メイドは見た目麗しい美少女が殆どで、あんまりポケーっと見とれていると、何やら溢れ出る魔力やらなんやらで魅了されてしまい、もの凄く襲いたくなるらしい。


 襲いたくなるのは俺たちが異世界を渡ってきた時に体の中に入ってきた『勇者因子』なるものが少ない証拠で、襲ってきたやつは『危険勇者』として戦闘時意外は勇者メイドがつかなくなり、身の回りは自分でやらないといけないらしい。


 勇者因子が少ないやつは、勇者に相応しくないやつ……まぁ言ってしまえばヤンキーとか、性格悪いやつとかそんなヤツらに少ない傾向があるらしい。


 あ、ヤンキーでも雨が降っている中、捨て猫を見つけて「……フッ、お前も1人なのか……」とか言って家へお持ち帰りしてそうなヤンキーは大丈夫そうな気がする。


 でもまぁ危ないもんね。いくら勇者メイドだって言っても知らねぇやつに襲われたら怖いもんね、うん。


 まぁ潤のメイドは逆に襲いに行く立場だったけど。


 そしてエリーさん情報によると、勇者メイドに手を出した愚か者は5人。男子が全員で20なので4分の1が見知らぬ異世界でのお世話なし生活が始まることをお知らせした。


 女子は同性だから問題ないらしい。


「……あれ、そうなると潤は……?」


「あの子は懺悔室に押し込めました。緑川光様には後々別の勇者メイドが宛てがわれ、試験をーーーー多分大丈夫だとは思いますが」


 うん、あのメイドさんは色々とダメだね。


「その、本当に申し訳ありませんでした。いくら王様の命令とは言え、こんな貴方達を試すような真似を」


「んあ?あぁ、いいって。呼び出したのはそっちだからといって、急に異世界人を信用しろとか言っても人間の性格的に無理でしょ?」


 俺だったら念の為に暫くは監視つけるね。そいつが悪人だったらさっさと魔王討伐にほっぽりだすもん。


「それに、少なくともやべぇやつは出てきたんだろ?ならそれで多分正解。エリーさん達が気に病む必要なんてまったくないんだよ」


「智様…………」


 ウンウンと腕を組んで二回ほど頷く。きっと潤だって俺とは少し言葉は違うだろうが、同じようなことは言うだろう。


 二回頷いた後に、エリーさんの顔を見てみると、その綺麗な目から2筋の涙が流れていた。


 …………あれぇー?なんでー?


「え、エリーさん!?」


 慌てて近くに行ってポケットから普段潤にしこたま持つように言われていたハンカチをサッと取り出してせっせとながれている涙を拭く。すげぇぞ潤。初めてこの俺の手洗い用のハンカチが役に立った。


「いえ……その、ごめんなさい……嬉しくて」


「……嬉しい?」


「はい。嬉しいのです智様。こんな気持ち………私初めてーーー」


 嬉しそうに涙を浮かべながら笑うエリーさん。その顔はとても綺麗だった。


「智様」


 指の腹で滲み出た涙を拭うと、俺の手を握ってくるエリーさん。


「……私、エリザベス・クロッケンは、勇者メイドとして、智様に、この体、そして心までも智様に委ね、一生お傍に付き従うことを、女神アテナ様に誓います」


 するの、エリーさんの体が一瞬光ったような気がした。


「……よろしくお願い致しますね、智様」


「……あ、あぁ……うん。別に体とかまで委ねなくていいけど……よろしく、エリーさん」


「さん付けいりません智様。是非、エリーとお呼びください」


「……うん、よろしくねエリー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る