第3話

 まるでいきなりラスボスに対峙したような感覚に冷や汗が止まらなくなる。ぶっちゃけ潤しか見ていない時点で俺は逃げれると思うが、潤は置いていけないし……ほんとにどうすればいいんだ……。


 ジリジリと寄ってくるメイド(変態)にこちらもジリジリと後ろに下がるが、すぐ後ろは俺の部屋だ。


 つまり、絶体絶命。このままだと潤の純血は奪われてしまい、快楽堕ちなんてバッドエンドが見えてしまった。男の娘だけど。


「さぁ潤様………諦めて、私と幸せな生活をーーーー」


 もうダメだ!と思った瞬間、横から何か物凄い勢いで飛んできた何かが、メイド(変態)さんを吹き飛ばした。


「へぶっ」


「全く………あなたは勇者様のお世話をせずに何をやっているのですか」


 聞き覚えのある救世主の声に目を向ける。そこには、今日限りの俺の専属メイドであり、とても優しいエリーさんが右手をあのメイド(変態)さんに向かって伸ばし、左手には今日の夜ご飯と思わしき皿が絶妙なバランスでエリーさんの腕に載っていた。


 エリーさんはあのメイド(変態)を一瞥した後に、俺の方へ顔を向けた。


「大丈夫でしたか?智様。お怪我等は………」


 心配そうな顔で俺を見つめてくるエリーさん。


 そう、俺はついつい呟いてしまった。


「………エリーさんマジ天使EMT……」


「………え?」


 あかん。うっかり惚れてまう。


 あの後無事に部屋へ戻って行った潤。エリーさんがあのド変態の他にメイドをつけましょうか?と言っていたが、苦笑いで断っていた。


 ………まぁ憧れの異世界で憧れていたメイドにあんな恐怖体験させられたらトラウマもんだよなぁ………。


 それで、エリーさんは俺に左手にで持っていた3つのお皿を丁寧に俺に渡し、気絶しているあの変態(メイド)さんの首根っこを掴み、どこかへ連れ去ってしまった。


 ………んー。料理を貰ったのはいいけど、一人で食べるのも味気ないしなぁ……折角美人なメイドさんいるし、一緒に食べたいと思うのはダメなんかね。


 とかなんとか思いながらぼーっとしてる事約30分。コンコンコンとノックの音が聞こえ、振り返ると丁度エリーさんが部屋へ入ってきたいた。


「失礼します智様。食器をーーーーまだ食べてないのですか?」


 机の上に置かれた、何も手がつけられていない食器類を見て、エリーさんが目を驚かせた次の瞬間、不安の色になった。


「……も、もしかして智様のお口に合わなかったでしょうか……」


 くっ、可愛い……じゃなくて!


「いや……その、一人で食べるのもなんか味気ないなぁって思って……エリーさんを待ってた」


「……別に、待つ必要などはなかったですよ。私達は後ほど食べますので」


「エリーさんは、今日は俺専属メイドなんだよね」


「はい、それはその通りですがーーー」


「それじゃ命令ねーーーー俺と一緒にご飯を食べよう。俺は誰かと一緒に食べるご飯が好きなんだ」


「……………」


 エリーさんは惚けた感じで俺を見たあとに、急にめちゃくちゃ優しい顔で微笑んだ。


「かしこまりました。それではご飯を取ってきますので、智様、もうしばらくお待ちください」


「あぁ……あ、でもゆっくりでいいからね」


「フフっ………はい、それでは行ってまいりますね」


 部屋を出る前にこちらへ微笑んだ顔がめちゃくちゃ可愛くて少し胸がドキッと高鳴ってしまった。


 ………あれは反則じゃありませんかね。


 ということで、今度は顔の熱を冷ますためにぼーっとする。エリーさん可愛いよなぁ……あの綺麗な金髪。一体どんな手入れをしているのだろうか。


 潤もいつもサラサラの髪してるしな。何のシャンプー使ってんの?って聞いたら女性用のシャンプーで髪を洗っていると聞いて、女子か!と突っ込んだことがある。あいつほんとに男?いやまぁ修学旅行とかで確認はしたけど。


 エリーさんのことから次第に潤の方へ思考がトレースしていくのを感じ、余計なことを考えていたらいつの間にか顔の熱も冷めた。


 コンコンコンと、ノックの音が聞こえ、今度は俺がドアを開ける。


「……ありがとうございます。智様」


「いいよ、気にしなくて」


 イスを引いて、そこにエリーさんを座らせる。


「……私がメイドなのに、智様になんかお世話をされていますね」


「こういうのはそういう問題ではないと思う」


 メイドさんであろうとこういったことは大事である。多分。だって潤が女の子には優しくねっていつも口を酸っぱくして言っているからな。


「お飲み物はどうしますか?水と、ジュースを持ってきましたが」


 あの食器を運ぶ台の上に置いてある奴から二つの入れ物をへと目を向ける。


「……じゃあ折角だしジュースを貰おうかな」


「はい、入れるのはお任せ下さい」


 席を立ち上がり、右の方の入れ物から俺の目の前にあるグラスへ赤色の飲み物が注がれた。


 ………一体なんのジュースなのだろうか。


 エリーさんも自分のグラスへ飲み物を入れると、それを持ち上げた。


「乾杯をしましょう智様。私達の出会いに」


「……うん、是非しようか」


「それでは、智様との出会いに」


「エリーさんとの出会いに」


「「乾杯」」


 チン、とガラスの音で異世界最初の食事会が始まった。

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