第95話 父の憂鬱

「今年もこの時期が来たかぁ……」


運転しながら、いつもよりテンションが低い父さん。隣ではいつも通り……というか、いつもより楽しげな母さんの姿があり、琥珀は首を傾げていた。


「あっくん、お父様はどうかしたの?」

「うーん、ちょっと本家が苦手なだけだよ」


いつの時代も、父親から見て可愛い娘を奪った旦那は目の敵にされやすいものだ。気持ちは分かる。俺だって、琥珀との可愛い娘が嫁げばそんな気持ちになるのだろう。


「そうなんだぁ」

「父さん、琥珀が心配するからあんまり辛気臭い顔しないでよ」

「ああ、ごめん、ついね。でも、お義父さんに会うといつものパターンだろうからねぇ……」

「仕方ないよ。娘婿全員が通る道だろうし、それに今年は俺が琥珀を自慢するから少しはマシだと思うよ」

「そうだといいけどね」


さりげなく自慢すると言えば照れた笑みを浮かべる琥珀たん。うん、もうさ、このまま本家じゃなくてホテルじゃダメかな?俺もさ、そろそろ我慢が限界なんだよね。琥珀の理想的なシチュエーションで初体験を貰う予定だけど、その前に琥珀が可愛すぎて我慢出来る気がしないのも事実だ。


「本家は田舎だけあって、野菜美味しいから楽しみにしててよ」

「そうなの?うん!分かった」

「暁斗、麗奈ちゃん達に会うのも楽しみね」

「麗奈ちゃん?」

「従姉妹だよ。本家での集まりは女の子が多いけど、俺は琥珀一筋だし、それに姉とか妹みたいな感じの関係だから心配ないよ」


その言葉にホッとする琥珀。麗奈という名前から不安そうな顔をしたので本当に良かった。むしろ、俺的にはもっとヤンデレみたいなオーラ出して『麗奈?誰それ?』みたいな感じで迫ってきても悪くはないが、琥珀があまりにも不安そうな顔をするのでまだまだ先は長そうだ。


まあ、可愛い琥珀たんの場合俺や相手に八つ当たりしないで溜め込むだろうから、こっちが気をつけないとね。嫉妬する琥珀も悪くはないけど、絶対琥珀は無理をするからそれだけのために琥珀を無理に不安にはさせたくないのだ。


「暁斗、分かってるとは思うけど……」

「分かってるよ。貰うお駄賃はなるべく抑えるから」


親戚の中で数少ない男なので、祖父母……特に祖父と会うととんでもない金額のお小遣いを貰うことに毎回なるので、祖父が気にしない金額だとしても、少しは値段を抑え目にする予定だ。


まあ、バイトもしてるし、琥珀には俺が稼いだお金で色々してあげたいというのも少しあったりする。男のプライドかな?でも、本当に必要なら琥珀のためにそれらを捨てることしないとね。なんでも柔軟に、琥珀のために。可愛い彼女には笑ってて欲しいでしょ?




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