閑話 惚気がデフォルトらしい

学生にとっては夏休み期間でも、大人はそうはいかない。お盆期間と年末年始くらいが長く休める時だろう。まあ、この店自体は比較的いつでも空いてる。忙しいのは執筆の方だろう。


特に”あの”カップルを描いたシリーズは人気作だ。


夏休み期間はあまり見かけなくてネタに詰まっていた頃に、それはやってきた。


「ここだよ、黒華ちゃん」

「へー、素敵な喫茶店ね」


いつもは彼氏とくる彼女さんが女の子の友達とやってきたのだ。女の子……この子も彼氏くんのこと好きなら三角関係とかになりそうかな。


そういえば、昔、付き合ってた頃に妻が小説のこと知らずに、女の編集さんの名刺を見て偉く怒られたことがあったなぁ。その時に『浮気するならちゃんと別れなさいよ!』と言われて思わず『じゃあ、別れるけどもう今度は結婚してください!』と叫んでビンタされたことは懐かしい思い出だ。


何故あの時の私は誤解を解く前にそんなことを言ったのだろう?


「あ、それがこの前の遊園地のやつ?」

「えへへ〜、あっくんがくれたの」


紅茶とケーキを頼んでからお土産を渡して楽しそうに話す女の子2人。この喫茶店では珍しい光景だ。きっとこの光景を見てることが妻にバレたら半殺しにされるだろうけど、小説のために、何より仕事なので仕方ないと割り切ることにする。


もっとも、こんなに頑張っても娘の私への評価が、『お父さんってマゾだよね』だけなのは悲しくなるけど。


「可愛いよねぇ♪」

「可愛い……のかしら?」


カワウソのマスコットキャラクターを見て首を傾げる友達。私も時々その感性は分からないから理解は出来る。


女性は褒められるのが好きだと聞いたので、夜景を見ながら『綺麗だね』と言った妻に『君の方が綺麗さ』と言ったら何故かボディーに重い一撃を喰らってそのままホテルに連れ込まれたのはいい思い出……なのだろうか?


「あっくんね、私が怖い時ずっと手を握ってくれてね」


しかし、さっきから彼女さん惚気が多いけど、友達はそれを微笑ましげに聞いてるのは凄いなぁ。やっぱり女の子は恋話好きなのかな?


とりあえず新しいネタと彼氏さん居ないときのキャラは掴めたので良しとしよう。もっとも、この後でキャラが更に深くなったと好評を受けると同時に娘がまた、『やっぱり浮気してるねぇ』と呟いたことで危うく妻に生爪を剥がされそうになるところだった。


思うに、娘は私を危険に晒して楽しんでるのだろうか?


誤解は解けてもその後で結局ヘッドバットを食らったのであまり喜べなかったが……まあ、仕方ない。




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