第9話 父親へのアピール

「ただいまー……って、あれ?琥珀ちゃん?」


帰ってきてから琥珀がいることに疑問符を浮かべる父さん。そんな父さんに琥珀はぺこりとお辞儀するので俺が説明する。


「今日から一緒に住むことになったんだ」

「住むって……ご両親は大丈夫なのかい?」

「うん、問題ないよ。琥珀。父さんと話があるから母さんの手伝い行ってくれるかな?」

「う、うん……」


とはいえ、このまま行かせるのもあれだしな。うん。


「琥珀」

「なあに……?」

「ちょっと近づいて」

「……?」


不思議そうにしながらもきちんと俺の言う通りに近づいてくる琥珀。そんな可愛い彼女の頬っぺに軽くキスをして赤くなる琥珀に微笑んで言った。


「今はこれで我慢するけど……そのうち、琥珀の初めて貰うからね」

「はぅあぅ……!?」


ぷっしゅー、っと、煙を出しながら真っ赤になった琥珀が台所に向かうのを見てから父さんを見ると何故か父さんは苦笑していた。


「母さんそっくりになったな。顔は僕に似たはずなんだけど……まあ、いいや。単刀直入に聞こうか。暁斗。琥珀ちゃんワケありなのかな?」

「まあ、そうだね」


軽くだが、俺は父さんに説明する。それらを聞いてから父さんはため息混じりに言った。


「まあ、児童相談所に相談しないのは僕も賛成だ。この辺りはあまりいい噂を聞かないしね。それに琥珀ちゃんのことを考えると下手に介入するよりも距離を取らせてるってのもいいと思う。ただ……そういうのは事前に知らせて欲しかったかなぁ」

「うん、それに関しては悪いと思ってる」


何しろ過去に戻ったのが今朝だからなぁ。


「まあ、何にしても……暁斗は覚悟は出来てるの?」

「覚悟?」

「琥珀ちゃんのこと。ちゃんと最後まで責任取れるのかってこと」


なんだそんなことかと俺はため息をついて父さんに言った。


「長年片想いを拗らせたからね。絶対に琥珀は幸せにしてみせるよ」

「……少し見ない間に大人になったね……まるで成人した子供と話してるようだよ」


妙に鋭い父さんだが、そこには深く言及はせずに言った。


「わかった。琥珀ちゃんをウチで面倒見るのを認めよう。お金も気にしなくていい。そういうのは大人の問題だからね」

「いや、後々返済していくよ。だって俺は琥珀の彼氏だしね」

「うん、でもそれだけじゃなくて、琥珀ちゃんもお前も僕達の大切な子供だからね」


そんな風にして父さんとは話がついた。この分だと本当にお金は受け取って貰えなそうだが……その分どこかで親孝行するとして今は琥珀を愛でようと思うのだった。






「ふふふ、明彦あきひこさん相変わらずカッコイイわぁ♪でも、琥珀ちゃん的には暁斗一択なのかしら?」


チラリと聞こえてきた会話の内容に赤面する琥珀にそんなことを言う暁斗の母親の紗季さき。そんな紗季の言葉に琥珀はポツリと呟いた。


「あっくんも、私と一緒だったんだ……」


琥珀は幼い頃より暁斗のことが好きだった。小学校高学年の頃に疎遠になり始めたことをかなり悲しく思っていたのだが……今朝になって告白してきてくれた暁斗。本当に嬉しかった。琥珀が昔から知ってた物語の王子様みたいな暁斗がまた自分を救ってくれたのだと。


「うふふ、琥珀ちゃんは本当に暁斗のこと好きよねー」

「はぅ……だ、大好きです……えへへ」

「あらあら、でも私達の夫婦愛に勝てるかしら?」

「むー、あっくんと私もラブラブだもん」


そんな風に話しながらいつの間にか打ち解けていく琥珀。桐生琥珀という少女は心から今泉暁斗という少年のことが大好きなのだ。


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