第5話 まずまずのスタート
「んじゃ、今日はここまでな」
その担任の言葉で教室は一気に騒がしくなる。入学式も終わり、新しいクラスのグループ作りが着々と進んでるのを確認して俺は席を立つと友人の川藤が不思議そうに言った。
「あれ、暁斗もう帰るん?」
「ああ、ちょっと彼女と待ち合わせしてるから」
「彼女!?暁斗が!?」
その川藤の予想通りの大声に注目が集まる。うん、いい感じだ。流石単細胞だよ川藤。
「なになに今泉彼女いるの?」
「え?本当に!誰々?」
「あ、俺知ってるぜ。今朝手を繋いで登校してたよな」
「マジか!?羨ましいなぁちくしょう!」
予想通り盛り上がる中で川藤は不思議そうに言った。
「んで、相手は?俺が知ってる奴か?」
「うん、同じ小学校だった桐生琥珀だよ」
「桐生って、ああ、そういえば、幼なじみだったな。でもあんなのが趣味なんてちょっと意外――ごめんなさい」
俺の殺意の籠った視線に反射的に謝る川藤。俺の琥珀を馬鹿にしたらマジで殺すだろうと思う。冗談抜きで。
「んじゃ、俺は行くから。後は皆楽しんでくれたまえ」
そう言ってから教室を出ると一気に盛り上がる様子を見せたのでこれでひとまず俺のクラスでの仕込みは終わった。後は落ち着いた頃に種を蒔くだけだろうと思い少し遠い2組を目指す。
教室を覗き込むと、琥珀は何人かの女子生徒に色々と聞かれて恥ずかしそうに答えてるところだった。いじめてた奴らは……とりあえず関わってはいないな。まずは悪くない滑り出しだ。
「琥珀」
「あ、あっくん♪」
俺の声に気づくとすぐに子犬のように駆け寄ってくる琥珀。思わず頭を撫でてから抱きしめると、教室から黄色い悲鳴が聞こえてくる。女子達はこの愛情溢れるやり取りに興奮してるのだろう。
「クラス別で寂しくなかったか?」
「えっとね、ちょっと寂しいけど、あっくんが来るのわかってたから大丈夫だよ」
そう健気に微笑む琥珀……あぁ、ヤバい。本気で可愛すぎる。もうさ、琥珀が可愛すぎて本気でそのうち襲いそうで怖い。いや、そのうちそういう関係にもなるだろうけど、なるべく琥珀は優しく扱いたいのだ。本当に大切だし無くしたくないのだ。
「あ、あの、桐生さん。その人が彼氏さん?」
そんな風に琥珀を愛しく思っていると、さっきまで琥珀に色々聞いていた女の子がそう聞いてくる。うんうん、その通りだと思いながら俺は微笑んで言った。
「初めまして。琥珀の彼氏の今泉暁斗です」
「桐生さんのどこに惚れたのか聞いてもいいかな?」
「全部です。俺は琥珀の全部が大好きだからね」
その言葉にまたしても盛り上がる女子達と、俺の腕の中で顔を真っ赤にする琥珀。いやぁ、自分でも思ってたより琥珀のこと好きすぎたのだろう。長年の想いが俺をヤンデレレベルまで押し上げたのだから本当に世の中何があるかわからないものだ。
「琥珀のことクラスではよろしくお願いします。恥ずかしがり屋なので守ってくれるとありがたいです」
「もち!任されました」
びしっと敬礼する女子。うん、こういう子なら琥珀を守ってくれそうだ。俺が教室に来れない間の護衛はやっぱりいるに越したことないからね。
そんな感じで入学式のスタートはまずまずの出だしを迎えることが出来たのだった。というか、琥珀可愛すぎて辛い。
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