第3話 まずは挨拶
「琥珀」
「なあに?」
きょとんとする可愛い恋人に俺は酷なことを聞く覚悟をして聞いた。
「お父さんとお母さんとうまくいってないんだよね?」
「……!?そ、そんなことないよ……」
「それ俺の目をみて言える?」
そう聞くと途端にしゅんとしてしまう琥珀。やっぱり既に家族は手遅れだったか……だとしたら早急に助け出さねばならないと決めてから俺は言った。
「ねぇ、琥珀。今家にはどっちかいるかな?」
「えっと、お父さんは一応……」
「そっか、ちなみに琥珀はこれから俺の家で一緒に住むことになったらどうする?」
「えっと……あっくんと一緒は嬉しいけど……でも、お父さんが許さないと思う」
俺と住むのは嬉しいんだ。うん、その言葉が聞けたら十分だ。
「うん、じゃあちょっとお邪魔するね」
「え……」
驚く彼女の手を引いて家に入る。予想通り家はあまりにも生活感溢れる様相をしておりげんなりするが、ここで児童相談所に通告するわけにはいかない。
確かに通告して琥珀が保護されれば家庭環境は問題なくなるだろうが……実は琥珀の件で、1度通告してスルーされたことが後から分かったので、この頃の児童相談所を完全には信じきれないのだ。それに琥珀は俺が守りたいのだ。だからそのための取り引きをする。
「こんにちは」
ソファーでお酒に囲まれて寝ている飲んだくれに声をかける。多分それが琥珀の新しい父親なのだろう。その声に気づいたのか何やら視線を鋭くしてからその人は琥珀に言った。
「琥珀……お前、何勝手に人入れてんの?」
ビクンと、怯える彼女。俺はそっと琥珀を庇ってから言った。
「初めまして。琥珀さんの彼氏の今泉暁斗と申します」
「……彼氏だと?」
「ええ。今日はお願いがあってきました」
絶対に琥珀には近づけさせないように庇う。そんな俺の様子を見て琥珀の父親は、はんと笑って言った。
「ガキがなんの用だ?」
「単刀直入に言いますね。文字通り娘さんを俺にください」
「え……」
その言葉にさっきまで震えていた琥珀が後ろで赤くなるのを確認してから俺は言った。
「俺はこの家で起こってることを全部知ってます。それを通告したら貴方の楽園は破綻する……だから、取り引きです。琥珀さんを俺にください。琥珀さんが俺の家に住むことをここで了承してください」
「そんな勝手許すと思うのか?だいたいガキのデマを大人が信じると?」
「では前情報を1つ。
ギンと視線を鋭くする琥珀の父親。何故そんなことを知ってるかって?琥珀関連のことは全部知れることは調べたからだ。ストーカーみたいだが、琥珀の家のブラックな事情は全部知ってるのだ。
「ガキが……!」
俺に掴みかかってくる琥珀の父親。怯える琥珀に微笑んでから俺は琥珀の父親に冷たい視線を向けて言った。
「ここで俺を殴りますか?それとも殺して口封じして全部ご破算にしますか?言っときますけど、俺は琥珀のためなら琥珀の父親を刑務所に送っても心は痛みませんよ」
「じゃあ、暴力で黙らせるとするか――」
「それもいいですが、それで俺に暴力奮ったら完全に言い逃れ出来ませんよ?俺は例え脅されても絶対に屈しませんから」
俺のあまりにも冷たい言葉に何か恐怖を感じたのか力を抜いていく琥珀の父親。それに俺は悪魔の囁きをすることにする。
「ここで琥珀を渡すと頷くだけでしばらくこの楽園を守れるんですよ。頷くだけでいい。どうですか?」
その言葉に琥珀の父親は舌打ちをしてから軽く頷く。
「では、琥珀は俺が貰っていいんですね?」
「ちっ……勝手にしろ。そんな役立たずお前にくれてやる」
「ありがとうございます」
ニヤリと笑ってしまう。今の一連は動画にきちんと撮ったので言い逃れは出来ない。あとは琥珀の母親だが……おそらく琥珀の母親は琥珀の父親にご執心だからすぐに頷くだろう。
琥珀本人の確認も取ったので、これで琥珀を家で保護しても何の問題もなくなった。うちの家族の許可?母さんは多分嫁入りだと喜ぶだろうね。うん。
「じゃあ、入学式終わったら今日から家で暮らそうね」
「あっくん……あの、本当にいいの?」
「うん。だって俺は琥珀が大好きだからね」
「うぅ……あっくん、やっぱりカッコイイよぅ……」
というか、思ったより琥珀の好感度が高めなのも嬉しいな。こんな汚いやり方してもカッコイイ扱いとは……やっぱり俺は琥珀大好きだ。うん。そうして俺はひとまずの問題を1つ片付けるのだった。
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